農業関係の本が出ていたので抜粋して紹介します。

 

国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係

  鈴木亘弘(すずき・のぶひろ)・森永卓郎(もりなが・たくろう)共著。2024年2月19日発行。講談社+α新書。900円+税。

  本の紹介から。講談社のHPより。

  「世界のどこかで有事、異常気象、天変地異が起きれば最初に飢えるのは日本、そして東京、大阪が壊滅する。気骨の農業学者と経済学者が命を懸けてこの国の危機を訴える。

  アメリカの日本支配に加担する財務省、そしてその矛盾は”知ってはいけない農政の闇”となって私たちの生活を直撃し、この国を崩壊させる悪夢のシナリオが私たちの知らないところで進んでいる。」

 

  鈴木亘弘さんの「まえがき」から。ここで彼の言いたいことが凝縮されています。

  「日本の農家の平均年齢は2022年の時点で 68.4歳である。この数字は、あと10年もしたら、日本の農業・農村が崩壊しかねない、という事実を示している。 

  さらにいま起きている生産資材価格の高騰分を、農産物の販売価格に転嫁できず、農家の崩壊スピードは加速している。コストに見合う価格で販売できず、次世代に引き継ぐどころか、現状の農家経営の存続自体、難しい状態が続いている。

  消費者は”農家は大変だよね”と他人事のように言っている場合ではない。この事態の意味するところは、輸出規制などで海外からの輸入が滞ってきたら、自分たちが食べるものがなくなり、命を守ることもできない、ということである。

  つまり、農業問題は農家の問題である以上に、消費者の問題なのである。この事実をいまこそ認識しなければならない。まさに、”農業問題は自分ごと”なのである。

  少々コストが高くても、国内でがんばっている農家をみんなで支える。それこそが自分や子どもたちの命を守る一番の安全保障なのだ。」

 

  農業問題の第一人者「鈴木亘弘さん」と経済アナリスト「森永卓郎さん」の対談がメインです。対談形式なので、読みやすく、すぐ読めてしまいます。鈴木亘弘さんは、農業問題に関する著作も多いのですが、近著に「世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか」(講談社+α新書)があります。著作の一つは下記ブログを参照にしてください。

※2021年9月9日ブログ「農業消滅」(テーマ別:書評)

  森永卓郎さんの近著は下記ブログを参照にしてください。

※2023年2月19日ブログ「増税地獄」(テーマ別:書評)

 2024年2月15日ブログ「ザイム真理教」(テーマ別:書評)

 

  内容は、上記の書籍の繰り返しと言えるもので、新しい知見はありませんでした。その中で、印象に残った文章を抜粋して紹介します。

  (森永)「安全保障とは何かをもっと真剣に考えるべきです。防衛費を倍増しミサイルを何百発も買うだけではダメ。国民が飢え死にしない体制をつくるために国の予算を使うことこそ最優先ですよ。」(p17)

  (鈴木)「農業予算は財務省の標的になっている。・・・1970年には1兆円近くあった農水予算は、いまでも約2兆円に過ぎない。総予算に占める割合もかつては 12%あったのが、いまは 1.8%しかない。一方で防衛予算は2024年度概算要求で 7兆円を超えてきている。予算規模だけを見ても、食料の問題がどれほどないがしろにされているかがわかるだろう。」(p149)

 

  (森永)「私は国民全員が農業をやる”一億総農民”をゴールに据えています。”自産自消””地産地消”、農産物を国内で消費し自給率100%を目指す”国産国消”。その先に”一億総農民”の時代が来ればいいなと。」(p25)

 

  (森永)「この30年のあいだ日本経済が低迷を続けた原因は、一つは財務省がやった緊縮財政、もう一つはアメリカへの全面服従ですよ。」(p69)

 

  (鈴木)「米が余ると言って水田を潰してしまうのは愚策です。・・・日本人の食生活を米食中心に戻せば、それだけで食料自給率が 63%まで上昇するというレポートを農水省が2006年に出しています。」(p91) 

 

  (鈴木)「まず子どもの教育が大事ですよ。われわれの世代は戦後にやられてしまったわけですから(アメリカの小麦戦略)。・・・給食をきっかけに好循環が生まれれば、その効果は少子化にも財政にも波及する。だから財政が少々厳しくてもやるべきだと思います。」(p94-95)

 

  (鈴木)「遺伝子組み換え作物のトウモロコシや大豆をアメリカからもっとも輸入しているのは日本。遺伝子組み換え作物を一番食べているのは日本人なんです。・・・(アメリカは)輸出先の国民の健康問題なんてまるで関心外に見えます。アメリカでは輸出用の農作物の収穫後、ポストハーベスト農薬といって、防かび剤などをかけることがある。小麦なんかは収穫前に除草剤をかけ、日本に輸送する前、小麦をサイロに貯蔵する際にも防かび剤をかける。発がん性の疑いがあって日本では禁止されている薬ですよ。」(p119-120)

 

  第4章「最後に生き残るためにすべきこと」(鈴木)より。

  「食料・農業・農村基本法」の中にある「食料安全保障・有事」について(議論の内容)。

  「具体的には、ふだんは花を作っている農家に対して、サツマイモを植え、供出するよう命じる法律が用意されている。これは無茶苦茶な話だ。日々一生懸命に食料を作っている農家には何の支援もしない。食料は輸入し、農家はどんどん潰れればいいという政策を取っておきながら、有事には国の命令に従ってサツマイモを作り、国のために供出しろというわけだ。そもそも、そんな簡単に作物の転換などできるわけないのだが、そんな無理矢理な話がどんどん進んでいるという。」(p155)

 

  「コオロギ食や培養肉はまさにショック・ドクトリンであり、既存の農業を破壊し、グローバル企業が取ってかわるための手段として使われている。・・・人の命や健康より、企業が儲かることが優先されているのだ。」(p162-163)

※ショック・ドクトリンについては、2023年6月14日ブログ「堤未果のショック・ドクトリン」(テーマ別:書評)を参照にしてください。

 

  森永卓郎さんは「あとがき」の中でこう述べています。

  「いまから150年も前、マルクスは、資本主義がいずれ行き詰まるだろうと予言していた。主な理由は4つあった。①許容できないほどの格差の拡大、②地球環境の破壊、③仕事の楽しさの喪失、④少子化の進展だ。」(p174)

  「資本主義を放置する限り、少子化は止まらない。強欲な資本家は、労働者が食事をして、睡眠をとって、翌日再び働きに出られるギリギリの報酬しか与えない。子どもを産み、育てる余裕を持てるほどの賃金は決して支払わないのだ。」(p175)

  「資本主義からの転換を図るために、必要なことは”人と地球を大切にする”ということに尽きるのだ。そしてその中心に位置づけられるのは、農業だ。」(p178)

 

   読んでみて感じたことは、「食料国内自給率」の向上を図ることで、その財源には躊躇することなく国家予算を充てること。学校給食の改善(米食)と、学校での農業体験の義務化があると思います。大人には、援農、市民農園などの農業体験の尋常化を進めます。これで消費者から農業者に変わると良いのですが・・・。