経済に関する新書が出ていたので、それの紹介です。

 

 プア・ジャパン

 気がつけば「貧困大国」

  ~”経済先進国”から”衰退途上国”へ転落~

  ~日本の凋落は食い止められるのか~

  野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)著。2023年9月30日発行。朝日新書。950円+税。

※野口悠紀雄さんの著作は、ブログ 2023年2月11日「2040年の日本」(テーマ別:書評)があります。これも参考にしてください。

 

  本の紹介から。

  「あなたは既に”貧民”かもしれないー。”瀕死の病人”日本経済の処方箋を示す!」

  「かつて”ジャパン・アズ・ナンバーワン”とまで称されたこの国は大きく退潮し、購買力は先進国で最低レベルに落ち込んでいる。国民の多くが自覚のないままに、経済大国から貧困大国に変貌しつつある日本経済の現状と展望を、60年間世界をみつめたエコノミストが分析する。」

 

  一言でいうと・・・著者は、日本の衰退からの処方箋は、デジタル社会への構造改革以外にない事を言っています。

  「はじめにー補助金や円安でなく、人材の育成を」で、この本の要約が書かれています。抜粋して紹介します。

  「日本の貧しさが、さまざまなところで目につくようになった。アベノミクスと大規模金融緩和が行われたこの10年間の日本の凋落ぶりは、目を覆わんばかりだ。 1人当たりGDPでみると、2012年には日本はアメリカとほぼ同水準だった。しかし、現在では約 3分の 1になってしまった。2000年には1人当たりGDPが G7諸国中で最上位だったのに、いまは最下位を争っている。そして、台湾や韓国にも抜かれそうだ。今後をみても、この状態が簡単に変わるとは思えない。」(p3)

  「日本衰退の基本的な原因は、日本の経済・社会の構造が世界の大きな変化に対応できなかったことだ。高度成長という成功体験のために経済・社会構造が固定化し、それを変えることができなかったのだ。」(p4)

  「補助(政策)は、社会を変革する先導分野に対してなされるのではなく、かつて経済の中心だったが衰退していく分野に与えられるのが通例だ。(その典型として農業に対する補助政策を上げる。企業に対する最も大きな補助は、円安)」(p5)

  「2022年には急激な円安が進んだため、惨状が誰の目にも明らかになった。様々な国際比較で日本の地位が低下した。また、物価が上がったのに賃金はそれに見合って上がらず、実質賃金が低下した。この状況が、今後好転するとは思えない。」(p5)

  「日本の社会構造と産業構造は、1980年代頃から変化していない。それまでの時代において有効だった仕組みが、いま成長の足かせになっている。 日本の遅れは、デジタル化の分野でとくに顕著だ。」(p6)

  「いま必要なのは、補助ではなく、産業構造と社会構造を改革することだ。そして、それを支える人材を育成することだ。人材こそが革新を生み、社会を変える。」(p7)

  「重要なのは、高度の専門的技術を身につけた人材が相応に報われる社会構造を作り上げていくことだ。・・・日本企業の基本的な構造が変わる必要がある。そうしたことによってしか、日本がかつての豊かさを取り戻すことはできないだろう。」(p8)

 

  詳しくは各章を読んでいただくとして、各章で印象に残った文章を抜粋して紹介します。

  「多くの外国人旅行客の急増は、一見して、日本の魅力が増していることの結果と考えられるかもしれない。しかし、実はそうではなく、それは日本が貧しくなり、物価が安くなったことの表れなのだ。」(p44)

  「日本が貧しくなるとともに、人材が劣化した。・・・日本の給与が低いのは、生産性の低い人が多いからだ。こうした状況で、賃金が上がるはずはない。 日本には”安い人材”しかいなくなった。いや、そうではない。正確にいうと、本当は能力があるのに、日本の社会構造のために、それを発揮できないのだ。多くの有能な人材が、潜在能力を発揮できずに安い賃金に甘んじている。」(p45)

  「(政府が進める円安政策を批判して)金融緩和と円安政策によって、成長のための基本的なメカニズムは破壊されてしまった。・・・日本企業は、低金利と円安の中で、イノベーションを怠り、衰退したのだ。この傾向を逆転しなければ、日本に未来は開けない。これこそが、日本経済が直面している最大の課題だ。」(p85)

  「日本で博士号取得者が少ない基本的理由は、日本企業が高度人材を評価しないことなのである。企業が高度専門人材を使って新しいビジネスを展開し、高度専門家に高い給与を支払うようにならなければ、事態が大きく変わるとは思えない。・・・日本企業の給与体系や勤務体系を全体として抜本的に変えることが必要だ。」(p223,p234)

  「日本の大学は、入学試験において潜在的な能力を判定するという機能しか果たしておらず、専門的な知識を教育するという機能を果たしていない。そして、日本の大学が社会の要請に応えた人材育成をしない大きな原因は、企業が高度専門家を評価しないことだ。」(p272)

  「生産性向上のためには、ジョブ型雇用の導入が必要だ。しかし、それを機能させるためには、高度専門家が一つの企業に縛り付けられるのではなく、転職を繰り返していくことが必要だ。ところが、日本の報酬体系や退職金制度が、障害になる可能性がある。ジョブ型雇用が広がるためには、日本の雇用制度の基本が変わる必要がある。報酬体系の一部だけを変えるのは難しい。全体を変えなければならない。これを実現するために、政府が果たすべき役割は大きい。政府の役割は、企業間の労働移動を円滑にするような仕組みを提供することだ。」(p296)

ジョブ型雇用:人材を採用する際に職務内容を明確に定義して雇用契約を結び、労働時間ではなく職務や役割で評価する雇用システム。(「PERSOL」より)

 

  著者は、膨大なデータから結論を導いています。その意味では、著者が述べていることは説得性があります。「日本の衰退の処方箋は、日本の産業構造と社会構造を改革すること、それを支える人材を育成する。ジョブ型雇用で高度専門家を確保する。」

  そのようにいくかどうか? 私は、悲観的に見ています。日本における政治家(政治屋)の腐敗、トヨタ(ダイハツ)のような大企業の不正行為が頻発しているのを見るにつけ、(日本は)衰退途上国のレッテルを貼られることはしばらく続くでしょう。

 

  著者は、アメリカ合衆国との比較を多く使っています。とくに「GAFA」。「GAFAは、政府の補助金で発展したわけではない。ベンチャーとして誕生し、苛酷な競争に勝ち残り、強大になったのだ。」(p267) それに対して日本は?

※「GAFA」については、ブログ 2021年12月21日「デジタル・ファシズム」(テーマ別:書評)を参考にしてください。

 

  著者は、経済格差をどう捉えているのでしょう? ジョブ型雇用が一般化されれば、アメリカ合衆国のように貧富の格差が一層激しくなります。それが理想の社会、日本の未来の姿でしょうか。アメリカ合衆国(ニューヨーク)に1年間住んだことのある私にとって、酷い貧富の差、健康保険の有無、人種差別など、日本の方が「まだまし」と思えるのです。今になっても・・・。

  デジタル社会に対しても問題があると思います。生成AI(チャットGPTなど)という、優れた機能も出て来ました。

※前掲の「デジタル・ファシズム」参照。

  データ処理、医療・介護等の場面では活用できます。ただ、デジタル社会(AI)に人間が支配されたら本末転倒です。

  私の個人的な感想ですが、電車で対面にすわる人が(例外なく)スマホを見る光景が、今でも違和感を覚えます。「SNS」なしでは生きてゆけないと言うのでしょうか。 日本人は、これで本当に幸せなのだろうか?

  飲食店で、タッチパネルで注文をするのが増えてきました。配膳ロボットを配置している飲食店もあります。人手不足からこうしているのだと思います。 味気ない!

   

  私は、こういう飲食店には行かないことにしています。昭和のおじさんです。居酒屋で、壁一面に貼ってあるメニューが懐かしいです。