久しぶりに、森永卓郎さんの本を購入しました。森永卓郎さんの本は、20冊近く持っています。2003年3月に発行された「年収300万円時代を生き抜く経済学」(光文社)は、そんな時代が来るのかと疑問に思っていたのですが、その通りになって著者の「先見の明」があることに感心しました。以来、生活者の目線を持つ著者の本を時々購入しています。著者は「経済アナリスト・獨協大学経済学部教授」ですが、書いた本は読みやすく説得力があります。最近は、長男の「康平」さん(経済アナリスト)がテレビ・ラジオにでる機会が増えています。

 

「増税地獄」

  ~増負担時代を生き抜く経済学~

  森永卓郎(もりなが・たくろう)著。2023年2月10日発行。角川新書。880円+税。

  本の紹介(KADOKAWAのHP)から。

  「増負担時代。給与の半分を税金等で持っていかれる! 今、家計を救うには?」

  税金や社会保険料で所得の半分近くを持っていかれている! 2021年度の負担を見ると、「租税負担 28.7%」、「社会保障費負担 19.3%」で、合計負担率は、48%まで増えている。しかし、庶民を救うべき政府は増税路線をひた走る。さらなる増税地獄がやってくる。国民全員が死ぬまで働き続けて、税金と社会保険料を支払い続ける納税マシンになる社会。われわれは、暮らしの発想の転換を急がなくてはならない。

  本書では、現在の税金、社会保険制度を徹底的に検証。増税地獄の実態を明らかにする。そして、「家計大苦難」時代のサバイバル術をモリタクが伝授する。

 

  私はこの本を2時間で読了しました。それだけ平易な文章で書かれています。上にあげた「本の帯」から内容の大体がつかめます。著者は、「はじめに」で恐ろしい事を予測しています。

  「今回の物価高は、2023年1~3月期には落ち着き、”再びデフレがやってくる”と私は考えている。その中で政府が増税をしてくることは間違いなく、日本国民はデフレで給料が上がらず増税で負担が増える、二重苦に襲われることになるだろう。社会保険料などの増負担もさらに行われるだろう。そして、経済は恐慌に陥る可能性が高い。」(p3)

  おいおい本当かよ?と思わせる文章です。(給料が上がるのは一部の大企業だけかよ!)

 

  印象に残った文章だけを抜粋して紹介します。

  「第1章 重税国家ニッポン」より。消費税は、「日本の消費税は社会保障財源に回されるのだから仕方ない、ヨーロッパと比べると日本の消費税率は低い」と(一般的には)思われています。著者は、消費税は庶民を苦しめるだけというスタンスです。

  「アメリカは消費税がゼロ。州ごとに小売売上税があるが、ない州もある。つまり、消費税がなくても財政は回るのだ。さらに、ヨーロッパは消費税の負担が重いのは事実だが、その分福祉や教育、社会保障は充実している。・・・スウェーデンの例を見ると、大学も含めて教育費はすべて無料。・・・教育費については、OECD加盟国の公的負担の比率、つまり政府がどの程度を負担しているかを比較すると、日本はデータのある加盟37カ国中、36位だ。要するに、政府が学校教育にほとんどお金を出していないのだ。・・・日本は教育にも年金にもお金を使っていないことは明らかだ。完全な重税国家といえる。」(p34~p35)

 

  「第3章 待ち受ける消費増税」より。著者はこう述べています。

  「私はそもそも”消費税を社会保障財源にしてはいけない”と考えている。第1の理由は、社会保障負担を消費者だけが負担することになるからだ。・・・第2の理由は、消費税の逆進性だ。低所得者層ほど収入に対する税負担は高くなる。低所得者の場合、収入の8割程度を消費に回しているから、8割に消費税がかかる(富裕層は収入の3~4割)。(p94~p95)

  「第4章 日本経済は世界一健全」より。日本は膨大な借金(国債発行)をして、財政破綻がくるのではないか? 後に続く世代に借金を残すこと(先送り)にならないか? と、私は考えていました。ところが著者は違った見方をしています。

  「日本には莫大な借金があるといわれている。確かに国の財務書類を見ると借金、つまり負債は 1,500兆円ある。しかし、一方で資産も 1,000兆円ある。7割が金融資産で3割が不動産だ。差し引き純債務は 500兆円となる。」(p112)

  金融資産については「米国債を叩き売って為替差益を得ればいい」「(高速道路を保有する)NEXCO各社の株式も売れる」と言い、不動産については政府が保有している不動産は超一等地(霞が関官公庁街、麴町と赤坂の公務員住宅など)にある、と述べています。 詳細はp112~p122を参照。

  著者は、岸田総理の危うさについて述べています。

  「私が思うに岸田総理の危険なところは、”財政は健全化すべし。金融は正常化すべし”と思っていることだ。・・・岸田総理が進める財政再建で誰が被害者になるだろうか。それは増税を食らった上に恐慌で仕事も危うくなる庶民だ。・・・今後、国民が恐れなければいけないのは、インフレよりもむしろデフレであるにもかかわらず、政府は増税をしようとしている。私は増税と金融引き締めによって恐慌が避けられないと思っている。」(p126~p127)

 

  第5章「住民税非課税という最強の武器」より。ここでは、意外なことが述べられています。

  「今世紀に入ってから、日本の生産年齢(15~64歳)人口は大幅に減ったが、労働力人口は逆に増えていることだ。2000年から2021年にかけて、日本の生産年齢人口は、1,187万人も減っている。逆に労働力人口は 141万人も増えている。その背景には、日本政府が進めてきた4本柱の労働力供給増加政策がある。・・・高齢者の就業促進策、女性の労働力供給を増やすこと、外国人労働者の増加、若年層の労働力を増やすこと・・・。4本柱の労働力は、いずれも低賃金労働力だ。日本の平均賃金が下落するのは当然のことなのだ。」(p133~p136)

  これに対応するため、一つの提案をしています。高齢者向け。

  「老後につまらない仕事をするのは時間の無駄・・・みんな老後資金が足りないからと働きに出ようとする。しかし、それでは豊かな老後はすごせない。こうした状況を変えるには発想の転換が必要だ。」

  「トカイナカ(都会に通える距離にある自然豊かなエリア)暮らしで時間に余裕ができれば、趣味を楽しむこともできる」「自産自消が必要であり、それは可能」「老後の生活設計にも太陽光発電が重要な役割を果たす」「井戸があれば生活用水は確保できる」などを提案している。著者は、それを実践しています。「自分で野菜を作り、電気を発電して、自給自足を進めていくと年金 13万円でも余裕で暮していくことができる。」(p145)

  「歳を取ったら、住民税が課税されるほど働いては、絶対にいけないのだ。」(p152)

  本を出して印税が得られる人が、何を言っているのか・・・と思わずにはいられない気がします。

 

  著者は、「おわりに」でこう述べています。

  「増税地獄から逃れる方法はたった1つしかないと考えている。それは、住民税の非課税最大限までしか働かないことだ。もちろんそのためには、移住を含めた徹底的な節約をして、低コストで生きていける生活基盤を作らないといけない。そして、野菜中心の質素な食事と適度な運動を心がけて、できるだけ長生きする。そうしたライフスタイルに政府はなかなか手を出せない。節約と健康への課税は、とても困難だからだ。」(p178)

 

  高齢者にはオススメです。