「未来の年表」に続く、将来の日本を予測する本です。著者は、私の信頼する経済学者の一人です。

 

「2040年の日本」

  野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)著。2023年1月20日発行。幻冬舎新書。980円+税。

  本の紹介から。

  「20年後、いまと同じ社会が続いていると無意識に考えていないか。2040年、国民の年金や医療費などの社会保障負担率は驚くべき数字になる。現在と同じような医療や年金を受けられると思ったら大間違いだ。事態改善の鍵を握る、医療や介護におけるテクノロジーの進歩は、どこまで期待できるのか。60年近くにわたって日本の未来を考え続けてきた著者が、日本経済や国力をはじめ、メタバースやエネルギー問題、EVや核融合・量子コンピュータなど幅広い分野について言及。変化に備えられるかどうか、人生の後半は決まる!」

 

  読後の感想は、日本社会と経済が行き詰まっているという悲観論が(「日本の未来」と同じように)高まりました。処方箋を示しているのすが、私には分かりづらいことも多くて、これで大丈夫か?と思える記述が多かったです。

  「はじめに」で各章の構成が示されています。

  第1章では、将来の日本の経済成長率を考える。今後、年率 1%の実質成長率を実現できるかどうかで、日本の将来は大きくかわる。

  第2章では、未来の世界における日本の地位がどうなるかを見る。

  第3章では、社会保障の問題について論じる。

  第4章では、医療・介護技術はここまで進歩するということを、期待を込めて記述する。

  第5章では、メタバースについて見る。

  第6章では、自動車関連の技術進歩を見る。

  第7章のテーマは、エネルギー問題だ。

  第8章では、以上で述べた以外の技術について見る。

  第9章のテーマは人材育成だ。

 

  第5章以降は、私の能力を超えていました。一例を上げれば・・・「メタバース」は、仮想空間でのイベントやコンサート、ゲームなどエンターテイメントだけと思っていたのですが、データの収集機能が第一と言います。企業にとって、データを利用して広告などさまざまな用途に利用することが期待され、メタバースで収集したデータを医療に活用する、買い物での利用と言ったことが考えられるそうです。

  各章の最後に「まとめ」があるので助かります。

 

  著者は、「おわりに:われわれは、未来に対する責任を果たしているか?」でこう述べています。

  「本書も、残念ながら、日本の未来を黄金時代として構想することはできなかった。・・・未来は積極的に作るものであり、変えることができると信じながら、しかし、本書においては、日本が復活するイメージを明確な形で提案できなかった。これは誠に残念なことだ。」(p298-p300)

  「そうできなかったのは、政治家や官僚が未来に対してまったく無責任であると、日々のニュースによって思い知らされているからだ。・・・政治や行政は、今後2,3年のことしか考えていない。つまり、著しい”近視眼的バイアス”がある。その結果、財源の裏づけがない”バラマキ施策”が人気取りのために行なわれる。」(p301)

 

  私が印象に残った文章を、(ランダムに)紹介します。悲観的な文章が中心ですが、処方箋は第5章以下を参照にしてください。

 

  「(国の)財政収支試算は、”いつになっても目標は達成できず、むしろ赤字は拡大する。財政危機は深刻化する”と読むべきだ。そして”財政健全化は、消費税の増税や社会保障費の思い切った削減を行なわない限り、実現できない”と読むべきだろう。 公的年金財政検証は、”所得代替率は引き下げざるをえず、年金財政は破綻する”と読むべきだろう。そして”それに対処するには支給開始年齢を 70歳に引き上げる等の措置が必要になる”と読むべきだろう。」(p55、p56)

  「日本の出生率が、政府がこれまで想定していたより大幅に低下し、歴史上最低値となった。しかし、20年後程度を問題とする限り、労働力人口などには、あまり大きな変化はもたらさない。それより、女性や高齢者の就業率を引き上げるほうが重要だ。」(p69)

  「未来の世界では、中国、インド、アメリカが経済大国になる。・・・日本のGDP(国内総生産)の 1%は、2060年においては、中国のGDPの 0.1%にすぎない。これだけの防衛費増額がどの程度の効果があるかを、冷静に判断すべきだ。・・・安全保障を単なる軍事力の問題として捉えるのではなく、より広範に捉えるべきだ。今後の安全保障は、何よりも外交の問題だ。」(p90)

  「急激な円安が進んだ結果、日本の一人当たりGDPは、台湾より低くなり、アメリカの半分以下になった。米韓との賃金格差も拡大している。これらは、数字上の変化だけではない。日本人が実際に貧しくなり、日本の産業が弱くなったことを示しているのだ。」(p99)

  「今後予想される介護人材のひっ迫は、大量の移民を認めない限り解決できないだろう。・・・国際的な介護人材は、中国やオーストラリアにとられてしまい、日本には来なくなるといった事態は、十分に考えられる。日本の国際的地位の低下が続けば、海外からの介護人材に頼ることは難しくなるだろう。・・・日本の賃金が国際的に見てさらに低下すれば、日本から人材が海外に流出する。そうなれば、日本の若い人々が介護分野で働いてくれなくなるおそれがある。」(p131、p132)

 

  そう言えば、最近NHKテレビ「クローズアップ現代」で、介護職場の実態が報道されていました。日本の介護職(外国人)はベトナム人が多いのですが、円安もあってベトナム人が祖国か他国に転職しようとしています。日本の若い人が、他国(オーストラリア)で介護職に就き、月収が 90万円(日本の 3倍)だと言います。これでは介護職に就く人がいなくなってしまいます。

 

  「日本の産業を発展させるためには、基礎となる研究開発と専門的人材の育成を行なう必要がある。日本が世界水準に追い付くには、大学での研究教育を根本から組み直すことが不可欠なのだ。」(p281)  

  「さまざまな世界ランキングで、人材面での日本の評価は低い。なぜだろうか? その理由は簡単だ。日本人は、大学で勉強しないからである。 では、日本人はなぜ大学で勉強しないのか? その理由は簡単だ。日本の企業が、大学や大学院での教育成果を給与面で正当に評価しないからである。・・・アメリカでは成績で賃金が違うので、学生は”死に物狂い”で勉強する。」(p289、p290)

 

  悲観的な文章が多くなりました。(処方箋の一例として)農業については、「フードテック」と呼ばれる単語がキーワードとして使われています。(p246、p247)

  ・ 人間を代替えする農業ロボット

  ・ 自動運転トラクタ等による無人農業、IOTを利用した精密農業の普及と、それらを通じて取得した環境データ等に基づいた環境制御システム。

  ・ 収穫した作物を、ドローンで収穫場所等に自動運搬するシステム。

  ・ 人口肉などの人口食材をベースに、オーダーメイドで製造(造形)する3Dフードプリント技術。