ちりりん。


テーブルに食器をセッティングしていると

ベランダの風鈴が、昼下がりの初夏の風と涼やかな音色を運んでくる。


急遽帰国が決まり、慌ててネットで新居を探す中

潤が大きなバルコニーが気に入って、角部屋のこの部屋に決めた。

今はまだがらんとしたその場所も、そのうち潤が育てる緑でいっぱいになるだろう。

潤はここにテーブルと椅子を置いて、皆でバーベキューがしたいなんて言ってたっけ。


まさかこんな未来が待っているなんて、あの頃の自分には想像も出来なかった。



セッティングを終えた潤と自分の席に、アメリカにも持って行き、今も割れずに現役のグラスをふたつ並べる。


涼し気なグラデーションの淡い青

どんなにお気に入りの食器が増えても、やっぱりふたりにとっていちばん特別な思い出のグラス。

ここ数年、何かイベントがあればこれで乾杯するのが習慣になっていた。


「あれ?そのグラス使うの?」

サラダを取り分けていた潤が気づいて声をかけてくる。

最近、人を呼ぶホームパーティでは使うことがなかったから不思議なんだろう。


「今日は記念の日だからね」

「・・?」


怪訝な顔で準備を続ける潤の横顔を伺いつつ、そっとポケットからニューヨークで買っておいた指輪の小箱を取り出す。

(サイズは大野さんから聞いた。

ダメ元で聞いてみたら、マジで知ってたからちょっとヒいた)


・・まさか雅紀に先を越されるとは思わなかったけど

もともと帰国して、会社を辞めたらプロポーズするつもりでいた。

だけどせっかくならアイツらと一緒に祝えたらいいかな、なんて気が変わったんだ。

独立して色んなしがらみを取っ払ってから、と考えていたけれど

心の病気を克服した潤に、もう俺との結婚を躊躇う理由は無いだろうから。



「・・ねえ、潤」

「ん〜?」


まさかこの後、人生最大のイベントが待っているなんて知る由もない潤が、のんびりした返事を返す。

その横顔は少し微笑んでいて、穏やかで、とても幸せそうに見えた。

こっちは滅多に緊張しない俺でも、箱を握る手が少し汗ばんでるっていうのに。

(OKって解ってても、緊張するもんなんだな・・・)



「潤」


プロポーズといっても、ここは日本で俺たちは男同士。

だからもちろん事実婚で構わない。


ずっと一緒にいて
ずっとこのまま、好きでいてね?


潤が俺にかけたという、いじらしくて可愛い呪い。
それを叶えること。
これからもずっと2人でいる

それを約束することが、目的なんだから。



「・・こっち向いて?」




― 完 ―





*久しぶりのお話、読んでくださりありがとうございました♡

我ながら拙いお話でしたが(すっかり書き方忘れたような…( ̄▽ ̄;)、その後のふたりを楽しんで頂けていたら嬉しいです❤️💜


*今回の企画にお誘いしてくれたゆうちゃん、企画&とりまとめくださったサラさん、本当にありがとうございました💜


*また、アメンバーさん再募集にたくさんの申請をありがとうございます♡(申請したのに承認されてない、という方は再募集記事の追記をご確認ください)


次は「奇蹟の星」の続きでお会いしましょう( ´ ▽ ` )ノ


キコ