奇蹟の星←読み返しはこちらから


 

「おっと」

 

朝、廊下で作動していた掃除ロボットにぶつかりそうになって

『モウシワケアリマセン。サクライハカセ』

「!?」

突然そのロボットが謝ってきたから驚いた。



「おはよう」

『オハヨウゴザイマス。マツモトサン』

「今日もありがと」

『ドウイタシマシテ』

 

リビングへ向かう途中、松本がナチュラルに掃除ロボットと会話してるのを

「なんだあれ」

たまたま通りかかったニノに尋ねたら

「ふふ、面白いでしょ。松本くんていちいちロボット相手に挨拶するんだよ。だから、返事できるようにラボじゅうの掃除ロボットとメンテナンロボットにAI搭載しといた(笑)」

「・・・」

 

確かに、松本が独り言なのか会話なのか分からない挨拶をロボット相手にしてるのは見たことがある。

もしかして、人だらけの地球から人けのないラボに来て寂しいのかもしれない。


・・にしたって

この数日、彼を見ていて気付いたけれど

松本はそのクールビューティな見てくれとは違い、どうやら中身はかなりのド天然だ。

喜怒哀楽も激しくて、そのくるくる変わる表情は見ていて飽きない。

ニノがUBを作ったと聞いたときの驚いた顔や、雅紀とニノの情事を目の当たりにしたときの狼狽ぶり、そしてそのあと俺に注意されてふて腐れた顔・・・

どれもこれも、今思い出しても

 

「・・ふっ、」

「どうかした?翔ちゃん」

「え?」

「いや笑ってるじゃん」

「・・へ?」

「ロボット眺めながら急に笑うんだもん。そんなに面白い?喋る掃除ロボット」

「いや、面白いのは掃除ロボットじゃな・・」

「?」

「・・なんでもない」


だけど、確かに今まで黙々とその辺りをウロウロしていた奴らが全部話しかけてくると思うと、変な感じだ。

この間の風呂の件といい、どうも松本が来てからラボの雰囲気が今までと違って調子が狂う。


「・・そうだ」

例の風呂待ちの件、ニノに頼んで早急に改善しないと。

それにしても多忙なニノがこんなどーでもいい掃除ロボットを改良してるなんて

 

「もしかしてニノ、今仕事ヒマなの?」

「なわけないでしょ(怒)」

「・・すいません」

「そんなことより、大野さんと松本くんってまだデキてないの?」

唐突に話題を変えたニノの声色には若干の苛立ちが含まれている。

当然、ニノも松本を採用した経緯については把握済みだ。


「・・、さあ」

俺だって気になってはいる。

やっと引継ぎを終えた松本が正式に智くんの助手となり、後日智くんにその感触を聞いてみたけど

『んふふ。・・まあ、可愛いよね』

なんてはぐらかされて

だけど、その表情からもかなり松本を気に入ってることは解るし

なら案外話は早いかもな、なんて思ってたんだが

 

「大野さんも何モタモタしてんだか。知念の時は速攻だったくせに」

「何でニノが焦ってんだよ。雅紀のことなら大丈夫だって」

「どうだか。何しろ3日間も二人っきりで手取り足取りだったんだからね?」

「お前も根に持つな・・」

 

ニノの雅紀への執着は逸脱している。

それは、精神的にも肉体的にも。

いくら雅紀にそんな気がないと頭では解っていても、松本と親しげにしているのを目の当たりにして穏やかではいられないのだ。

 

研究用クローンは常に頭脳がフルで回転するよう、細胞に負荷がかかる状態で造られていて(それが短命な原因のひとつでもあるんだろうけど)

つまりは常時アドレナリンが出てるような状態で、その特性としてやたらと性欲が強いヤツが多い。

そのあどけない容姿とは裏腹に、ニノもまさにその典型だった。

・・まあ、だからこそ松本もすぐ2人の関係に気付いたわけだけど。



「ここではお前に理解出来ねえ事がいっぱいあんだよ」


あの日

連日松本に雅紀を独占されて、分かりやすく欲求不満になってたニノが

どういうつもりで雅紀を追いかけてったのか、俺と智くんはすぐに理解した。

なのにあの天然バカが、のこのこ二人を探しに行きやがって

もうちょっとでニノの機嫌が最悪の状況になるとこだったんだ。

 

あの二人の関係性を、そして俺たちの特殊な境遇を

何も知らない、天然で純粋培養な松本に理解してもらおうだなんて思わない。

あいつはとにかく智くんを癒し、その役目を全うして、何も知らないまま地球に還ればいい。


「もしかして、滝沢さんかな?」

「・・は?何でここで滝沢の名前が出てくんだよ」

「いや、松本くんてタッキーにやたら懐いてない?」

「・・・」


一一何だそれ

面白くねえな。


滝沢が、俺らのことを人と思わず異端扱いしてることくらいとっくに気づいてる。

彼だけじゃない、事情を知ってる本部のおエラいさん連中は大概そうだ。

そんで、松本が火星から一緒に来て何かと世話してくれた滝沢を、唯一の心の拠り所にして慕っていることも。


・・だからなんだ。

松本には智くんがいるんだふざけんな。

あいつはそのうち智くんと、


「翔ちゃん?どうかした?」

「・・いや。どうせ滝沢はそのうち本部に戻るだろ。あの二人の件には影響ねえよ」

「う、うん。そうだね」

 

・・でももし、そうなったら。

本当に、あの二人がそういう関係になったら。


不意に脳裏に浮かぶ、あの日みた陶器のような白い肌

長い睫毛に紅い唇

誘うような胸の黒子


身も心も疲れ切った智くんは

ニノにとっての雅紀みたいに、松本を離せなくなるのだろうか。

知念といた時の彼をよく知らないから何ともいえないけれど、もし松本を手に入れればきっとそうなるような気がした。


「・・いいじゃん」


いいことじゃん。

それこそ俺の計画どおり。

想定どおりだ。


そうだ。

はやく二人が上手くいけばいい。

そうすれば

俺がずっと抱えていた罪悪感もやっと払拭されるだろう。

ついでにこの胸のモヤモヤも。



*デビューから24年、おめでとうございます✨

潤くんメッセージありがとう💜