その日は夕方から雨が降った。

職場の窓から暗くなった空を見上げて
「もう、会えたかな・・」

今日、2人は5年ぶりに再会する。
潤ちゃんはそのことを知らないけれど、俺もおーちゃんも
そして誰よりも櫻井くんが
この日が来るのを何年も待ちわびていた。


この5年間
櫻井くんは潤ちゃんをずっと諦めなかった。
まだ16だった彼にとって、5年という時間は気が遠くなるくらい長かったに違いないのに。
その間の彼の努力や葛藤、家族との衝突
本人が辟易するほどモテたことでトラブルも絶えなかった。

俺はおーちゃんから聞いてたくらいだけど、櫻井くんは本当に頑張ったと思う。
2人が再び会えると決まってからは
これが愛の力だね、なんて
おーちゃんと二人で飲むとよく泣いて語りあった。

ーーー

『会えたみたいだよ』
おーちゃんからのLINE。
「みたいって?」
『覗いたけど、もう社会科準備室にはいなかった』
「早!」


感動の再会を前に、櫻井くんはまず保健室のおーちゃんの所に立ち寄ったらしい。

「久しぶり、大野先生」
「おう、来たか」
「今から行くよ」
「ん。この時間なら松潤もまだあそこにいるだろ。
ところで何でスーツ?今日は別に挨拶とかないだろ?」
「諸々事情は明日説明するよ。じゃあ」
「あとで俺も行っていい?」
「・・勘弁してよ」
「んだよ、ケチ」
「これでも緊張してんだよ」

そう言って眉を下げて笑う櫻井くんが可愛かったとおーちゃんからLINEが来てた。
それから1時間も経ってない。
・・まあ、そっか。
5年ぶりだもんね。
職場で話して終われるわけないよ。


よかったね、潤ちゃん。
本当によかった。

会えなくても、お互いずっと好きだったんだもん。
もう離れなくていいんだよ。

やっと幸せになれるね
櫻井くんなら大丈夫、あんなに想いの強い人はどこにもいないから。

今までのぶんも、いっぱいいっぱい幸せにしてもらってね。


その次の日から、一緒に暮らし始めたと聞いた時はさすがに驚いた。

とはいえ櫻井くんはまだ大学の授業も残ってるから、週の半分は一人暮らしのアパート、あとは潤ちゃん家というスタイル。
地方と東京を忙しく行き来する櫻井くんを、潤ちゃんも甲斐甲斐しくサポートして
それはそれはラブラブな2人。

俺とおーちゃんも幸せそうな潤ちゃんが嬉しくて
お邪魔とわかっててもついつい週末になると2人の家を訪ねては、楽しい時間を過ごしていたんだ。


ーーーーー

2月に入ると、翔ちゃんが卒研発表の準備と卒論執筆のピークを迎え
ほとんど研究室に泊まり込む毎日で、潤ちゃんの家にもしばらく帰って来れないらしい。
その代わりと言ってはあれだけど、俺とおーちゃんはしょっちゅう潤ちゃんの家に来ていた。

「寂しくないよ、大丈夫だってば」
潤ちゃんはそう言って笑うけど
まあ本音は、久々に翔ちゃんに気兼ねなく3人で集まれるのが楽しいってのもあって。
 

その日も潤ちゃんの作ってくれた鍋を3人でつついて、飲んで騒いで
客間でおーちゃんと倒れこむように雑魚寝した。

夜中に、ふといつもと違う気配を感じて目が覚める。

「雪・・!」 

やけに静かだと思ったら、窓の外にはらはらと白い雪が舞っている。
「おーちゃん、起きて!雪だよ!
・・って、無理か」
子供みたいに眠りの深いおーちゃんは夜中いくら起こしたって絶対起きないってことは、いつも一緒に寝てる俺が一番よく知ってる。
でも久々の雪になんだかワクワクしちゃって、このまま寝てるなんて出来ない・・・

ーーそうだ。
朝起きて、庭に雪だるまがあったら皆ビックリするんじゃない?
よし、そうしよ♪
ダウンを羽織り、そうっと雨戸を開けて中庭に出る。

「おお、すげ・・」
あたり一面いきなり雪景色。
自分の吐く息が白くて、スキーに来たみたい。

ふと見ると、潤ちゃん達の寝室に明かりが点いていて
ぼんやりと翔ちゃんらしい後頭部のシルエットが見える。

ああ、翔ちゃん久々に帰って来れたんだ。
よかったね潤ちゃん。
何だかんだ言っても寂しそうだったし。

ーーそうだ
雪が降ってるって教えてあげよ!
ワクワクしながら雪を踏み踏み、中庭を進む。

この家はコの字の平屋造りになっていて、潤ちゃん達の寝室と俺らが使わせてもらってる客間は端と端、ちょうど中庭を挟んで向かい側にある。

明かりの漏れる寝室の窓に近づくと、レースのカーテン越しに翔ちゃんの裸の背中が見えた。
そしてそこから見え隠れするように

あれは潤ちゃんの・・

「・・!」

デスクのライトに照らされて、ぼんやりと白く浮かぶ
何も身につけていない身体。

翔ちゃんの肩に腕を回して
腰のあたりに脚を絡めて
身体を弾ませている。

眉を寄せて唇を開くその表情は苦しそうで
それでいて恍惚としていて
時折いやいやをするように頭を振っては白い首を晒す。


快  感が過ぎるのか
抱き寄せる翔ちゃんの腕から、背中を反らして逃れようとするも
その腰は、なおも強請るように厭  らしく  揺れ続けて

「・・・」

初めて見た、翔ちゃんに抱  かれる潤ちゃん。

その乱  れていく様から目が離せなくて
雪の中身動きも出来ず
寒さも忘れて、ただずっと見ていた。


次第に2人の動きが激しくなって
潤ちゃんが苦しそうに大きく 喘  ぐ。

誘うように差し出した舌を
翔ちゃんが絡め取るようにキスをして

そのままお互いをきつく抱きしめ合いながらベッドに沈んで

視界から消えた。


再び、しんと静かな雪の中にひとり取り残された俺は、異様に興奮していた。

潤ちゃんの切ない喘  ぎ声や
翔ちゃんの荒い息遣いまで聞こえてきそうな
絡み合う身体の熱さえも感じるくらいに生々しい、2人の姿。


よかったね、潤ちゃん。
久しぶりに会えて、嬉しかった?
だからそんなに激しく  抱  かれたの?
それともいつも、そんななの?

あんなに  喘  いで  揺さぶられて
涙を散らして  乱  れるなんて

そんなに気持ちよかった?
翔ちゃんの身体はそんなにいいの?


知らなかったよ
抱  かれているとき
潤ちゃんがそんなに綺麗だなんて

そして知らなかった

潤ちゃんがそんなに  淫  らだったなんて。