目覚めると辺りは薄明るくなっていた。どれだけ寝ていたのか、あるいは気絶していたのか見当がつかないが、奇跡的に生きていた。息もできた。前も見えた。鳥のさえずりも聞こえる。血のにおいもかすかではあったがした。痛いという感覚もあった。これだけの事故にもかかわらず車のガソリンに引火しなかったのはとっさにエンジンがストップしたからだろうか。私は詳しくないが、数多くの奇跡が重なっていたことは間違いはないだろう。しかも、ところどころ変形はしているものの、私の体は車体と激しくは接触せず、さらに上下が逆さになって押しつぶされるということもなかった。

 まさに奇跡だった。これを奇跡と言わずしてなんといおう。しかし、私の心は素直には喜んではいなかったのである。「死に損なった」という言葉が頭に現れていた。

 

 とりあえず、生きているからには助けを求めようと、まずは人の姿を求めた。しかし、これには全く以て期待はできなかった。山と山の間の深い森に人が立ち入るとはどうしても思えない。もし人がいたとすれば私は「くだらないことはよして家に帰れ」と励まさなくてはいけないかもしれない。

 私はまずは川、どんなに小さくとも水が流れているところを見つけようと躍起になった。川を辿ればいつかは人のいるところに着くからである。私はこの状況をなんとか凌駕してやろうと試みた