自殺志願者だった。

 などといえば語弊があるが、現代社会の息苦しい生活に嫌気がさした。どこか、こことは別のどこかへ行きたいと願った。

 

 「どこか」を探して私が向かったのは高山立ち並ぶ地域だった。そこなら現代の社会とは違う何かがあると確信し、車を走らせた。そのときに車に乗せたのはなぜだか私の愛読書であった。なぜかは私でも分からない。しかし、人生とは小説よりも奇怪なことにあふれているものだ。その気まぐれが私に生きる決意をさせる一助となったのだから。

 

 気がついたら夜になっていた。山の中である、アスファルトの質は悪く、所々ヒビが入っていたり、非道い場合には浮いていたりしていた。灯りは車のヘッドライトのみで、さらに曲がりくねった道であるから常に気を配って運転しなければならなかった。疲れてはいたが、停まる意味も見いだせずにただハンドルを握って車を走らせていた。

 

 ふと、目の前に何かが現れた。それが何なのか、今となっては全く以て知るよしなどないが、何かが現れたのである。私はとっさにブレーキを踏み、そしてハンドルを思い切り右にきった。車体は山肌に衝突し、大きな音を響かせた。直後にエンジンが大きくうなり、車体は左へと向きを変え、崖を真っ逆さまに落ちていった。そこで私は気を失った。

(続)