【報告(前半)】吉田敏浩講演会「密約の闇をあばく 米兵犯罪と日米地位協定」
【報告】吉田敏浩講演会「密約の闇をあばく 米兵犯罪と日米地位協定」(前半)
9月13日、「密約の闇をあばく 日米地位協定と米兵犯罪」を行いました。
講師はジャーナリストで『密約』(毎日新聞社)著者の吉田敏浩さん。北部ビルマ取材の経験から、日本が再び「戦争する国」になろうとする有事法制、自衛隊派兵の現場を取材してきた。
吉田さんは下記のような講演を行いました。
<米軍の特権定めた地位協定>
昨年、対等な日米関係を目指すという触れ込みで発足した民主党政権は核持ち込み密約などを調査した。しかし、密約を廃棄し対等な立場を求めることはない。日米地位協定に関する密約群には手をつけていない。
8月末、安保防衛懇報告書は集団的自衛権容認、地球的規模でアメリカと共に「平和創造」を提言。これが密約問題に関係ある。日米安保体制、日米同盟(日米軍事同盟)の根幹には日米地位協定がある。
日米地位協定は日米安保条約の付属協定。在日米軍と米軍人の権利と義務など法的地位を定めたもので28条からなる。基地や演習場の提供方式について日米合同委員会施設分科会で協議して、どこを基地として提供するかを決める。米軍の自由な基地使用が認められている。米軍部隊の出入国や国内移動の権利。米軍による日本の公共施設の利用優先権。関税など課税の免除。物資や労務の調達方式・契約方式。駐留経費の負担方式。本来は米軍が負担すべき、米軍で働く従業員の人件費、光熱水費、建設費を日本が負担。米軍人・軍属、家族が事件・事故を起こしたときの刑事裁判権。米軍機の墜落事故、米軍車両による交通事故、米軍人軍属による犯罪による被害者への損害賠償など民事裁判権について定めている
日米合同委員会の刑事裁判管轄権分科委員会、民事裁判管轄権分科委員会での合意事項がほとんど公表されない。朝鮮半島有事の時、事前協議なしに自由出撃できる密約があるが、基地使用の規定そのものが米軍優位。
米軍は自由に日本の領土・領海・領空を出入りして、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争に出撃している。戦争ができる国づくりの流れで日米軍事同盟の強化、日米軍事一体化があり、専守防衛を乗り越える流れになっている。
米兵の公務執行中の事件・事故が起きた場合の第一次裁判権はアメリカ側が保持する。公務外の場合は日本側が第一次裁判権を持つ。起訴するまでは米軍が身柄を確保する米軍に有利な規定がある。有利になっているのを確実なものにするために密約がある。外務省・法務省に何度も情報開示請求をしているが、「不開示」「文書不存在」で公開されない。
米公文書館では国務省などの公文書が公開される。その中に第一次裁判権放棄の秘密覚書があった。1953年10月28日の日米合同委員会裁判権分科委員会刑事部会の日本側部会長の声明として非公開議事録に「日本側にとって著しく重要と考えられる事件以外は第一次裁判権を行使するつもりはない」。
法務省刑事局の内部資料「合衆国軍隊構成員に対する刑事裁判権関係実務資料」の中に「日本側にとって重大な事件でない限り第一次裁判権を放棄」するという全国の地検への通達などが載っている。国立国会図書館や大学図書館が古書店から買って所蔵。90年から国会図書館で公開されていた。ところが、08年法務省が国会図書館に非公開を要請。一時閲覧禁止になった。
<低い米兵起訴率>
密約の結果、米兵の起訴率が低い。01年~08年に日本側に第一次裁判権がある公務外の刑法犯の起訴は645人。起訴率16.9%で非常に低い。だが、自民党政府も民主党政府も密約を認めず、米兵と日本人の犯罪との間で区別はしていない。08年の全国の起訴率は18・7%で差がないと。
統計をよく調べると、不起訴が起訴を大幅に上回る自動車による過失致死傷を除くと、米兵犯罪の起訴人数は218人。不起訴は1042人。起訴率は17.3%。同じく全国の一般刑法犯(大部分は日本人)は83万1069人、不起訴87万8723人。起訴率は48・6%。米兵の起訴率が極めて低いことは明らか。
米兵らの強盗、強盗致死傷、殺人、放火の起訴率は60~80%台だが、窃盗、強制わいせつ、住居侵入、強姦、暴行、傷害は起訴率7~27%。詐欺、横領、公務執行妨害、恐喝など7つの罪名にいたっては起訴率0%。個別事件ごとの報告書は加害米兵の個人情報保護と全て不開示になった。
米兵起訴率が低い裏には日本側が重要と考える事件以外は第一次裁判権を行使しないという密約がある。非常に米軍に甘い。これが米兵犯罪の温床になっている。
法務省刑事局は米軍の軍法会議で処罰した方が重い刑罰が課されるから実効性があると主張している。日本側が不起訴にしてアメリカ側に裁判権が移った場合、実際はどのような処理がされているのか。06~08年自動車による過失致死傷の事件も含めた米軍人らの刑法犯だけでも、不起訴が1058人いる。法務省の回答によると、そのうち、軍法会議にかけられたのはたった10人。しかも法務省は、懲戒処分になった人数の把握もしていない。
公務中の米兵犯罪(06年から08年)の場合、法務省の回答では誰も裁判を受けていない。1952年以降、公務中の米軍機墜落事故や米軍車両による人身事故などで軍法会議に付されたケースで、日本政府が把握しているのはたった1件。公務中でも公務外でも、米軍内部の処分がいかに甘いか。
防衛省の資料によると、1952年度から2006年度までの在日米軍による事件・事故の件数・死亡者数は、公務中で4万7650件・517人、公務外で15万7135件・564人にも上る。ただし、復帰前の沖縄での事件・事故は含まれていない。
これだけの事件事故が起きているのに日本側は実態を把握してないし、処分も甘い。 アメリカ側に有利な取り決めが秘密にされ、議論のための土台となる情報が政府によって隠されている。
横須賀の山崎正則さんは、2006年1月3日、妻を空母キティホーク乗組員に殺された。道を聞くふりをした米兵に話しかけられて立ち止まったところを非常にむごたらしい形で殺された。私の取材に、山崎さんは米軍は日本を守ってくれていると思っていた。だから、妻も米兵にも親切にしたのに殺されたと、非常にショックを受けている。根底に日米同盟優先がある。だから、事故・犯罪の被害も騒音爆音などの基地被害も「やむをえない犠牲」とされる。
<地位協定の7つの密約>
日米地位協定関係の密約ではっきりしているのが7つ。
第1は、前述の第一次裁判権放棄に関する密約。第一次裁判権を事実上放棄する密約。
第2は、米軍人・軍属被疑者の身柄をできる限り日本側で拘束せず、米軍側に引き渡すという密約。
第3は、公務中かどうか不明でも米軍人・軍属被疑者の身柄を引き渡す密約。公務中なら米軍側に、公務外であれば日本側に第一次裁判権があるというのが地位協定第一七条(刑事裁判権)の取り決めだが、基地と基地との移動中など公務中かどうかはっきりしない場合には被疑者の身柄を米軍側に引き渡すという密約。第2の密約の実施を実務的に確実なものにするための秘密の「合意事項」。
秘密合意は国内法に違反している。九項aの秘密合意で公務中か不明の場合も、とりあえず身柄は米軍側に引き渡すということが実際に行われてきた。過去に検察内部でも疑問の声が上がっている。一部の大学図書館で閲覧可能な法務省刑事局の「外国軍隊に対する刑事裁判権関係通達質疑回答資料集部外秘」の中で、東京地検検事が刑事局担当者に刑事特別法11条と合意事項のどちらが優先するのかと質問。合意事項によるべきだと回答されている。密約が法律を超越している。これは問題ではないかと法務省と外務省に質問をすると、合意事項を優先することに何の問題もないと開き直った回答しかしてこない。