【報告(後半)】吉田敏浩講演会「密約の闇をあばく 米兵犯罪と日米地位協定」 | 国連・憲法問題研究会ブログ

【報告(後半)】吉田敏浩講演会「密約の闇をあばく 米兵犯罪と日米地位協定」

吉田敏浩講演会(続き)


<日米地位協定の三層構造>


 日米地位協定は三層構造。日米安保条約、日米地位協定、日米地位協定についての合意議事録、安保刑事特別法、安保民事特別法、地位協定実施に伴う国有財産管理法、航空特例法をはじめ様々な特例法など、全文が公開されているものが一番上。
 その下に隠されているのが「日米合同委員会刑事裁判管轄権分科委員会において合意された事項」、「裁判権分科委員会民事部会、日米行政協定の規定の実施上問題となる事項に関する件」など、日米合同委員会の合意事項や議事録。それらの全文は公開されず、一部内容が変えられ、要旨だけ公開される。ここで秘密合意事項(密約)が生み出されている。官僚しか知らない。
 日米合同委員会は、日本側の代表は外務省北米局長で、法務省の大臣官房長や防衛省の地方協力局長などが代表代理として参加。米軍側は、在日米軍司令部の副司令官、在日米大使館公使などがメンバー。
 その下に刑事裁判管轄権、民事裁判管轄権など34の分科委員会や部会がある。議事録や合意文書は原則として公表しないという取り決めになっている。行政機関の裁量としてそうしている。分科委員会の合意事項は要旨しか公開されず、全文は秘密。日米合同委員会が秘密を生み出す機関になっている。合意事項の全文は、法務省や警察庁や最高裁などの秘密資料、部外秘資料にだけ掲載されている。政府の秘密資料は一般には公表されず、国会にも提出されない。
 さらに一番下に、「米兵犯罪の裁判権放棄の密約」や「米軍人・軍属被疑者の身柄引き渡しの密約」など、法務省などの秘密資料にも載っていない密約がある。
 例えば、1953年の日米行政協定(現日米地位協定) 第17条の刑事裁判権条項の改定で、公務外の米兵犯罪は日本側に第一次裁判権があると改められた際、改定交渉において日米当局が合意し、日米合同委員会裁判権分科委員会刑事部会の非公開議事録の形式で記され、保管された。これらは秘密指定解除された英文の公文書として米国公文書館で見ることができる。ところが、日本では情報開示請求をしても、外務省・法務省は文書不存在という回答。
 核持ち込み密約でも、昨年の政権交代で外務省が調査をしたら、文書が出てきた。だから、地位協定の密約も政府が本気で調査したら文書は確実にあると思う。
 他の密約は、第4に民事裁判管轄権に関する密約。例えば米軍機墜落事故とか犯罪被害の損害賠償を求めて裁判を起こしたときに、裁判所が米軍に情報提供や証人出頭を求めた場合。機密に属する情報や米国の利益を害する情報などは提供しなくてもよく、証人として出頭させなくてもいいという密約。
 第5は、米軍機が墜落した場合などの事故現場に、米軍は所有者の事前の承諾なくして機体の回収などの作業のために立ち入ることができるという密約。沖縄国際大学米軍ヘリ墜落で 米軍が墜落現場を占拠して大学関係者も立ち入り禁止にして事故機を回収したのもこの密約があるから。
 第6は米軍が軍事機密性が高いなどと判断すれば、その施設・区域(基地)の存在を公表しなくてもいいという密約。
 第7は米軍人・軍属の公務執行中の範囲を拡大解釈する密約。


<自衛隊が地位協定で加害者に>


 近年、問題は日米間にとどまらなくなってきた。自衛隊の海外派兵が進み、自衛隊がクウェート、ジブチと日本側に非常に有利な地位協定を結んでいる。自衛隊が事件・事故で海外の人に被害を与える立場になっている。
 米軍は現在、40ヵ国以上に基地をおいている。アメリカは世界中いつでもどこでも出撃できる軍事即応体制をとっている。基地使用・部隊行動に関してフリーハンドを保ちたい、駐留先国の法律に厳しく制約縛られたくないと有利な地位協定を求める。
 米兵は酒や麻薬に走って犯罪に及ぶケースが多いのは、グローバルな戦争体制を取り続けるアメリカ軍の構造的問題。米軍上層部が綱紀粛正を何度誓っても繰り返される。米兵が駐留先国でなるべく裁かれない方が有利だというのには、そういった背景がある。
 日本はこれまで米軍の駐留受入国の立場から地位協定を見てきた。ところが、自衛隊の長期にわたる海外派遣に伴い、日本国と派遣先国が自衛隊と自衛隊員の法的地位を定める地位協定を結ぶ時代が到来した。
 イラク派兵時のクウェート、海賊対処派兵時のジブチと地位協定を結んでいる。刑事裁判については、派遣先国の裁判は免除され、日本側が専属的に行使する規定だ。仮に自衛隊員が犯罪を犯しても公務中か公務外かを問わず、派遣先国の裁判にかけられることはない。
 民事裁判は公務中の場合は免除。公務外の場合は被害者側からの損害賠償を求める訴訟の対象になりうる。非常に日本側に有利。
 外務省地位協定室長は、「米兵犯罪の防止には、地位協定の改定よりも運用改善が実効的だ。もし地位協定17条を変えたら、海外展開する自衛隊の法的地位に影響を与えることを考慮している」と言っている。日本政府が米国に地位協定改定を求めない背景には、海外で自衛隊に米軍と同様の特権を持たせたい。
 近年、自衛隊は日米軍事一体化のもと、イラクで武装した米兵を乗せるなど兵站支援をし、海外展開能力を高めている。イラク、アフガン帰りの米軍と共同演習を重ねている。米軍と一緒に戦争できる能力を蓄えつつある。
 そういう海外派兵に向かう流れの中で、海外で基地を設ける時に、自衛隊は自分たちに有利な協定を認める。これは派兵とワンセット。実際に自衛隊はジブチで自衛隊基地を建設している。
 国民・市民の目が入らないところに秘密の構造があり、軍事優先の秘密の構造が膨らんでいくことに、厳しい目を向け、事実を明らかにしていかないといけない。



講演を受けて、質疑応答が行われ、NATOや湾岸諸国と米国の地位協定と、日米地位協定との違いなどについてなどさまざまな質問が出た。
吉田さんは、NATO諸国で日本のように駐留受け入れ国に不利な協定を結んでいる国もあるが、内容は公表している。湾岸諸国は地位協定の内容自体公表していない。
地位協定を公表はしているが、実際は密約を隠しているのは日本だけではないかと。


また、家族が自衛隊内部のいじめの犠牲者となり、自衛隊相手に裁判をやっている原告の人もアピールした。