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『少ない情報で無理矢理商談を纏めようとすれば、必ず足下をすくわれる』。会社で先輩に口酸っぱく言われてきた言葉を思い出した善治郎は、立て続けてにアウラに質問を投げかける。

「すみません。また話が元に戻りますが、もし私がこのお話をお断りしたら、アウラさんはいったいどうなさるのですか? ご結婚されないというわけには行かないのでしょう?」

「ああ。その場合は、恐らく国内の比較的王家の血が濃い貴族を婿に迎えることになるだろう。もっとも濃いと言っても、たかが知れているが」

 だからこそ、ご迷惑を掛けることを承知の上で、ゼンジロウ殿をお呼びしたのだ。と、アウラは自嘲気味に笑った。

(なるほど。一応国内にも婿候補はいるんだな。まあ、当たり前か。……ん? まてよ? ちょっとカマを掛けてみるか)

「その婿候補の方と言うのは、やはり曾祖父や曾祖母に王族を持つような方なのですか?」

 善治郎のカマ駆けに気づかないアウラは、苦笑して首を横に振る。

「まさか、そんな血の濃い人間はもう残っておらぬよ。精々、曾祖父の祖父が王族とか、良くて曾祖父の母親が王族といった程度の人間だ」

(やっぱり、ビンゴだ!)

 アウラの返答に、善治郎は内心の驚きを隠し、どうにかポーカーフェイスを保つ。
 会社の上司曰く。『営業にとって表情筋は、理性で動かすものであって、感情にまかせるものではない』。そんな上司の教えが、こんな異世界で生きている。
 今のアウラの返答は明らかにおかしい。曾祖父の祖父というのは数で表せば五代前、曾祖父の母とは四代前に王族の血が入っていたということになる。
 一方、地球に転移してきた善治郎のご先祖様というのは、五代前の人間だ。アウラの言うとおり、四代前の人間が生き残っているのだとすれば、そもそも五代前の血しか引いていない善四郎を召喚する理由がない。
 善治郎が生まれ育った村が閉鎖的であったため、結果として善治郎が極めて濃い王家の血を持っていたが、そのことは召喚するまでアウラも知らなかったはず。現に彼女は「嬉しい誤算」と言っていた。
 つまり、王家の血が濃い人間と次代の子をなすため、異世界から婿候補を召喚した、という説明自体が嘘と言うことになる。

じゃあ、なんで俺を召喚した? ひょっとして俺を婿にしたいって言う話自体が嘘なのか? いや、駄目だ。そこから疑いだしたら、きりがない)

 そもそも、善治郎には自力で元の世界に戻る手段は無いのだ。そう考えれば、アウラが上手いことを言って善治郎をだまくらかす必要はない。ただ、「元の世界に返す手段は無い」と嘘をつけば良いだけなのだから。
 恐らく、アウラは可能な限り、善治郎と誠実な交渉をしようとしている。

(だから、俺を婿にしたいって話も、異様なくらいの好条件も事実だと考えてもいいはずだ。そのほうが話のつじつまはあう。だとすれば、なぜだ? なぜ、アウラさんはあえて、あんな好条件を示してまで、国内貴族より『血の薄い』異世界に逃げた王族の子孫を召喚した?)

「ゼンジロウ殿? いかがされた?」

「あ、いえ。すみません、ちょっと考え事を。それで、もし私が、アウラさんと結婚することになれば、アウラさんとしては私がどうするのが理想ですか? いえ、法律上どうしなければならないとかじゃなく、あくまでアウラさんのご希望として」

 善治郎の問いに、アウラは小さく肩をすくめると、気持ちよいくらいはっきりと答える。

「特にない。この話を受けて下さるのということは、ゼンジロウ殿は私のために、故郷もご家族もそれまでの生活も