目が覚めたら小指に指輪がはめられていた。


今、ジュンミョンとクリスはイギリスに向かう飛行機の中にいる。

たしかにその指輪は離陸するまではクリスの指にはめられていたはずのもので、それがなぜ今は自分の指で鈍く光っているのかジュンミョンは合点がいかなかった。


「イーファン」とジュンミョンは滅多によばない本名で、隣に座るクリスを呼んだ。

今回のロンドン行きは二人だけだ。リーダーとして気をはる必要もない。


「何だ?」とクリスはジュンミョンの呼び掛けに答えて少し身を傾けた。


「なんでお前の指輪が僕の指にあるの」


「貸してやる。せっかくヨーロッパにいくのにお前は地味すぎるから。」とクリスは答えた。

失礼なやつだ、とジュンミョンは憮然としたが、この指輪は格好よく思える。

青い石がいくつも連なっていて、綺麗だ。ビーズみたい。


現地では行く先々でクリスに助けられた。

入国審査でうまく説明できなかったときも、カフェで注文にもたついたときも、ジュンミョンを助けてくれたのはクリスだった。

自分でできると強がったくせに、引き返してくる長身を見てほっとした。

まるで兄に守られていた頃のようだ。


クリスと二人きりでは、あまり喋ることもなかった。

口を開けば残してきたメンバーのことばかりを話した。

母親だの父親だのは割りきったキャラ付けであるはずなのだが、

話題の中心になったのはジュンミョンをママと慕うタオのことで、いつの間にか保護者意識が染み付いてしまったらしい。


イギリスに着いたその日、先輩のライブに行って舞台上で挨拶をした。

はけるときに繋いだ手はしばらくつないだままにしていた。

裏口から出るときイーファン、と呼ぶとつないだ時と同じような自然さで離された。

手をつないだのは、それきりだった。


2日目には授賞式に参加した。世界中のトップアーティストが集まるなかで、アジア人の二人組は浮いていた。

舞台を見上げながらジュンミョンは、またメンバーのことを思いだした。

明日には韓国に帰る。2日間ずっと、ジュンミョンの指にはクリスから預かった指輪がはめられていた。


指輪、返さなければだめだろうか。まだつけていたいのだけど、いけないだろうか。


帰りの飛行機でジュンミョンは軽く拳を握って目を閉じた。指輪はまだつけたままだ。

けれど不器用なクリスが一本、また一本とジュンミョンの指を開いていくのがわかって、ああもう終わりなのだなと思った。

もうクリスはイーファンではないし、飲み物を買うのを手伝ってもらう必要もない。手を繋ぐこともない。


ジュンミョンはぱちりと目をあけた。目の前にクリスの驚いた顔があった。


「クリス」と、ジュンミョンは目の前の男を呼んだ。

「ごめん、返しわすれてた」早口で嘘をつき、自ら指輪を引き抜く。


それからクリスの大きな手をとり、指輪を元の位置にはめてやった。

「また貸して」と、ジュンミョンは言った。

彼は惜別のように指輪を見つめ、それからクリスの目を見た。

「ああ、わかった。またな」「ありがとう、クリス」そうして、二つの手はゆっくりと離れた。

これが二人の間におきた2日間の出来事のぜんぶだった。


数時間後、ジュンミョンは馴れたフラッシュと喧騒の渦中にいることだろう。

タオは甘えて土産を欲しがるだろう。

大丈夫、自分は戻っていける。



ジュンミョンはクリスと背中合わせで眠りに落ちた。

小指が冷えるようで、ブランケットの中にぎゅっとしまいこんだ。