若かりし頃、20代から30代にかけて、私はしょっ中、元主人(以下、主人と書く)と一緒にお洋服を買いに行っていた。

その頃、私にはファッションセンスが全くなかった。
自分にどんな服が似合うのか、全く分かっていなかった。

そんな時、近隣でもオシャレで有名だった主人が私の洋服を選んでくれた。

学生の頃からオシャレだった主人は、大人になってからも某男性ファッション誌のモデルを頼まれたりするような人だった。

だが決してモデルみたいなイケメンだった訳ではない。

顔も悪くはないがごく普通だし、身長は低いし、痩せてもいなかったが、洋服のセンス、着こなし、佇まいは誰が見てもイタリアンな男だった。

洋服だけでなく、時計、クルマ、に至るまでこだわりの強い人だった。
ご両親は全くもってそう言う趣味はなかったから、彼の生まれ持った才能、だったのだろう。

ショップの店員も彼に一目置いており、いつも最上級のもてなしを受けた。
お茶を入れて貰い、服の話や世間話も交えて、いつも2時間は店で過ごしていたように思う。


何だか自慢話をしているみたいで申し訳ないが、遥か昔の話で、もう離婚もしたのでどうか許して欲しい、笑

彼が選ぶ服は素材第一、だった。
生地帳から生地の手触りを指先で確かめて、自分のスーツを作るような人だったから、私は彼の買い物を横で眺めているだけだった。


ある日、主人が私に選んでくれた、某有名ブランドのニットを着ていた日に、叔母にたまたま会った。
その叔母に言われたのは思ってもない言葉だった。

「〇〇ちゃん、どうしたの?そんな堅いお洋服を着て。」

選んでもらった服をお高いブランドの服だ、と思って自信を持って着ていた私は衝撃を受けた。

「もっとフェミニンな服の方が似合うのに。」

私は愕然としたと同時に、腹が立った。プライドを傷つけられたような気がしたのだ。

でも、分かっていたのである。
心のどこかで、自分の雰囲気ではない、と言うことは分かっていたのだ。

私は痛い所を突かれ、猛烈に腹が立った。

でも、よくよく考えると、主人の選ぶ洋服は、生地や仕立ては最高だが、形がシンプル過ぎて、私の雰囲気ではなかった。

それらは身長のある女優さん、例えば天海祐希さんや、松嶋菜々子さん、黒木瞳さんらが、高身長でサラッと着こなすような雰囲気の服だったからだ。

他のブランドならフェミニンなものもあったのだが、主人の好みが、その某ハイブランドだったのだ。


それからと言うもの、私は1人で洋服を買うようになった。

最初は失敗だらけだった。
今から考えるとダサい女だった。笑
あれやこれや、と試行錯誤し、ようやく自分流のファッションに行き着いた。

もちろん、ハイブランドの服はデザインも優れているし、仕立ても素材も素晴らしい。

でも、私の身長ではオシャレには着こなせないのだ。

私は値段やブランドではなく、自分に似合う服を探せるようになった。

オシャレになってくると、店を見た瞬間に、自分の買う服があるかどうか、分かるようになった。

私は今では即決で洋服を選ぶことができる。

店に入ると、パパッと何着か手に取って、試着し、瞬時に似合うかどうかを判断する。

だから決して男性を待たせる事のない、お買い物が出来る。笑

自分がオシャレでも、異性に洋服を選ぶのは難しい。
主人はオシャレだったが、異性の洋服を選ぶ才能はなかった。

よく考えて見たら、ハイブランドのデザイナーは女性的な男性が多い。
だから、女性の感性に近い人が、女性に似合う洋服を作ったり、チョイスする事が出来るのかも知れない。

私は今でも主人に感謝している。

主人が色んなハイブランドに連れて行ってくれていたおかげで、店で店員さんに物怖じすることもなくなった。

そして友人達からオシャレだ、と言われる程度にはオシャレをする事が出来るようにもなった。

主人の選んだ服は私をオシャレにはしなかったが、私がオシャレになるキッカケを作ってくれた。

そして私は離婚をして、お金持ちではなくなったが、プチブランドで十分オシャレが楽しめるように修行出来た事を、本当に嬉しく思っている。