コロナ禍 保育現場で今
「人を増やせる予算を」
2020年9月21日【くらし】
おもちゃ・手すり…トイレ消毒は１日３回
子どもが集団で長時間過ごす保育園では、新型コロナの感染拡大防止に力を入れています。今どうしているのか、何が必要かを現場の保育士に聞きました。（染矢ゆう子）
東京都内の公立保育園では、子どもが触ったおもちゃ、蛇口、手すり、すべての部屋の床といすを消毒しています。布のおもちゃは洗濯。本や木のおもちゃも固く絞ったタオルで拭きます。おもちゃは昼、トイレは１日に２、３回消毒します。
他の人に負担が
「朝、夕の保育補助の職員は消毒にかかりきりですが、今までと同じ人数で保育をしています」と保育士のＡさん（４０代）は話します。産休や育休代替の派遣社員はなかなか集まらず、欠員のまま。感染不安のある妊婦は医師などの指導で休業が可能ですが、「ほかの人の負担になるから休めない人もいます」。
散歩やプールは通常通り。食事の時はテーブルを追加し、６人掛けから４人掛けにして距離をとります。１部屋使っていた昼寝は２部屋に。「呼吸チェックの当番が２人必要になり、事務や話し合いをする時間が削られています」とＡさん。
１園あたり５０万円の感染防止の国の補助金は、人を増やすことではなく、テーブルなどの備品整備にあてられる予定です。「きちんと人を増やせる予算がほしいし、子ども１人当たりの保育室の面積を広げてほしい」
昼寝は向き変え
神奈川県内の公立保育園で働くＢさん。対面での給食を避けるために園児を２グループに分け、４人掛けのテーブルで２人ずつ食べます。散歩にはいかず、園庭で遊びます。昼寝は、頭の向きを互い違いにしています。
消毒は１日３回。保育室の床、机やいすなど、子どもが触るものを消毒液で拭きます。朝夕の時間帯や産育休の代替に非正規職員をあてたくても、時給が低く欠員が多いのが現状。「保護者に園での様子を伝えるため、掲示やクラスだよりを増やしています。行事など減った仕事もありますが、やることも増えて忙しさは変わりません」
感染症の拡大を防止するために大事なことは「具合の悪い子どもや職員が安心して休むこと」です。しかし、川崎市の保育問題交流会が昨年行った保育労働実態調査では、現行の保育士数で対応できない事態を聞いたところ、「同僚が体調不良で休んだとき」が５３・５％もありました。
同市では認可保育所の保育士が休憩を取れるよう、正規職員４人につき、担任をもたないフリーの保育士１人配置を基準にしています。
公立園にはフリーが３、４人います。しかし、同調査の自由記述欄には、株式会社立の保育園の保育士から「人手不足で休みづらい」という訴えが寄せられています。「資格者がクラスに１人しかいないときがほとんど。散歩に出られなかったりすることが多々ある」「体調不良時に有給休暇をしぶしぶとれる状況」などの声が。
処遇をよくして
厚生労働省は感染対策で保育士などの人員不足で基準を満たさないことがあっても自治体に「配慮」を促すだけ。人員不足を追認しています。
Ｂさんは言います。「保育士の配置基準を改善し、非正規職員の時給を上げるなど、処遇をよくすることで保育士不足を解消してほしい。国が保育の質を保障するガイドラインを定めて、民間も公立並みの賃金にすることで、安心して働き、体調が悪い人は休めるようにすることが必要です」
感染対策は
富山市でこども園・幼稚園の感染対策に携わる富山大学小児科講師 種市尋宙さんのアドバイス
Ｑ 幼児のマスクは？
Ａ 無理に着用しなくてよいです。観察を行ったところ、幼児は正しい着用ができておらず、指導後も大きな改善はありませんでした。逆に目鼻口を触る原因になっていました。手洗いや環境整備などに重点を置く方が効率的だと思います。
Ｑ 消毒は？
Ａ ドアノブなど不特定多数が頻回に触る場所は１日１～２回の消毒を依頼しています。遊具や絵本の消毒には限界があり、手指衛生や登園前の健康チェックに重点を置く方が効果的だと思います。
Ｑ トイレ掃除は？
Ａ 新型コロナウイルスは便からも比較的長期に排出されており、感染拡大が懸念されましたが、その後、目立った報告がありません。トイレ掃除は１日１回で十分だと考えて対応していますが、感染者増加の兆候はありません。
Ｑ 熱が出た子がいたら？
Ａ 吐物やくしゃみや咳（せき）などの分泌物を、対応する保育士が適切に処理（手指衛生、目鼻口を触らない）すれば十分です。５分程度の部屋の換気が必要だと思います。小児は家族内感染が主ですので、家族に感染兆候がなければ、保育施設は過度に心配する必要はありません。