第2派に備えるためにも 「発熱難民」どう救う | 子どもたちもお年よりも笑顔あふれる街へ

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2020とくほう・特報 “第2波”に備えるためにも「発熱難民」どう救う

発熱外来にとりくむ 東大阪生協病院の現場から考える

2020年5月26日【3面】

 37度前後の熱が続いていたが“コロナの疑い”を理由に診察を断られ、ようやく別の病院で受診できたら他の悪性疾患の疑いが―。新型コロナウイルス感染症の拡大下で国がPCR検査を絞った結果、感染の疑いの晴れない発熱した人が、院内感染をおそれる医療機関から診察を断られ、「発熱難民」となる事態が各地で生まれ重症化する人も出ました。その中でコロナ疑いの人も診察する「発熱外来」は“命のとりで”です。「無差別平等」を掲げる全日本民主医療機関連合会(増田剛会長)の加盟医療機関が、各地で発熱外来を開設しました。第2波の感染拡大にも備え、国民の医療を受ける権利を守るために何が必要か。東大阪市の東大阪生協病院(橘田=きつだ=亜由美院長)の現場から考えました。(内藤真己子)

38度超え79歳 “助かった”と

 「2日前、母が畑仕事して具合悪くなって、熱中症やろうと、かかりつけの医院に連れて行きました。受け付けで熱を計ったら38・4度。すぐ外に出てくれと言われ別の病院の連絡先を教えられて電話したけどダメ。保健所に相談したら生協病院を紹介され、検査と点滴をしてもらえた。ほんまに助かりました」。夏日が続いた今月中旬、母親(79)を連れて発熱外来に来た女性(51)は、ホッとした様子で語りました。

 発熱外来は、発熱を訴え来院した人が、それ以外の来院者と接触しないように設けられています。受け付けや会計も屋外テントで行います。最初は1日4人までの予約制でしたが依頼が殺到し10人までに増やしました。50日弱で約200人が受診しています。

 防護服の医師と看護師が対応し診察・検査、処方箋を発行します。コロナの疑いがあれば保健所の許可を得てPCR検査の検体を採取し、保健所に運びます。

 検体採取ブースは衣装ケースの骨組みに透明ビニールをかぶせた手作り。「顎を上にあげてくださいね」。防護服に身を包んだ橘田院長がビニールの切り込みから手を入れ、患者の鼻に綿棒を差し込んで手早く採取しました。雨ガッパの防護服の手首と足首をガムテープで巻いて手袋や靴カバーに密着させます。「中は蒸し風呂状態」(同氏)。保冷剤入りのネッククーラーを首に巻いても額に汗がにじみます。

現状の多くが「自分で相談」

 同病院も4月上旬に発熱外来を開設するまでは、発熱した患者の診察は受け付けず、保健所の指示に従うよう告知していました。ところが「保健所から『かかりつけ医』に行けと指示された」という患者が次々にやってきました。「発熱者の受診を断っていたら患者さんの受療権を守れない。一方で感染は防がねばならないので、動線を分けた発熱外来をつくることにしたんです」と橘田院長。保健所に同外来の開設を知らせると、保健所の紹介でかかりつけ患者以外も来るようになりました。

 国は国民に、高熱などの症状がある場合は帰国者・接触者相談センター(保健所など)に相談するよう告知しています。センターは、相談内容から同感染症の疑いがあると判断した人には専門の「帰国者・接触者外来」でPCR検査を受けるようコーディネートします。一方、そうでない場合は、自分で「かかりつけ医」などに相談するよう指示することが多いのが現状です。

 ところが大半の医療機関は感染を防ぐために発熱者の受診を断っていたため、「発熱難民」が生まれました。同生協病院に発熱外来があると知れると、他市の人からの問い合わせも相次ぎました。

30近い病院に電話かけ続け

 大阪市在住の会社員の女性、Aさん(49)もその1人です。Aさんは4月下旬に37・5度前後の熱が続きました。同市の相談センターに電話しましたが「帰国者・接触者外来」は紹介されず、「かかりつけ医」か、自分で病院を探して受診するよう言われました。Aさんは免疫不全の持病で通っていた病院に連絡しますが、発熱を理由に断られました。

 仕方なくネットで検索し、30近い医療機関に電話をかけ続け、ようやく同生協病院にたどり着きました。PCR検査でコロナは陰性。細菌性の肺炎で、抗生剤を服用し治癒しました。「このまま死ぬのかも、と不安でたまりませんでした。コロナでも別の病気でも、ちゃんと医療が受けられるようにしてほしい」。切々と語ります。

人件費防護服 全部持ち出し

 発熱外来での診療には、医療機関に支払われる診療報酬として、通常の診察料の他に1件3000円の加算がつくようになりました。しかし同病院の吉永哲弥事務長は「専任の医師に看護師、複数の事務職員を配置した上に、防護服や設備経費の支出もあり、この程度の加算では全然見合わない」と言います。

 また同病院が行うPCR検査の検体採取は、保健所の検査の一部を担うものですが、自治体からの財政的支援はこれまでありません。

 国は今年度補正予算で、帰国者・接触者外来等の設備整備事業にも使える、都道府県への交付金を設けました。厚生労働省は同病院のような場合も事業の対象と言いますが、届いていません。「リスクのある検体採取なのに人件費はおろか、意外に高い綿棒や防護服の費用まで、いまのところ全部持ち出しです」と橘田院長。

 PCR検査は医療保険でも可能になり、診療報酬の対象となりましたが、「いまの報酬では検査会社に費用を払うと、ほとんど残らず赤字になる」と吉永事務長は話します。

 一方、患者の受診抑制で同病院も4月は前年同月に比べ外来で2割、入院は1割の減収。国の要請を受けた自治体健診の自粛も重なり経営は大ピンチです。

 橘田院長は言います。「患者さんの受療権を守り、感染を防止して診療するには、地域にPCR検査センターをつくり医師の判断でスムーズに検査できる体制の構築が必要です。また『発熱外来』を設けて頑張っている医療機関には、経営が成り立つような診療報酬と、安全に診療できる防護具や設備の支援を国が全面的におこなっていただきたい」