夏の暑さに 山の頂が溶けだした
沼地を埋め尽くした睡蓮の水蒸気爆発
構えなく一本の茎に無重力で留まる
深遠なる神様糸トンボの交尾に
静かにかしずく雨蛙 汗の雫


数年前から降るのは夕立と言えるような
ヤワな雨ではなく
かつてインドシナに居たスコールだ
 空は潰えた記憶を丸呑みにして
 吐き出している




噎せ返る陽炎の街を
極楽鳥のような若者が
タイムスリップして闊歩して行く
月日は一代の過客にして
人もまた一代の過客なりと風に嘯く
五里霧中の白馬王子


花の色は移りにけりなの十二単衣は
捻れた時間のメタモルフォーゼかも
しれない
生命の通り抜けていく次元は
何時も新しいけれど
きらびやかな輝きはゆっくりと
半減期を終焉に向かって過ぎて行く
 されど やがて古ぼけていく今も
 せめても今は セピア色ではない




死なないと我を張る人の
目の慰安のために
いつからか交配された
大小の遅咲き向日葵と
無数の早咲きコスモスが 
同じ季節に咲き狂う散策路を 
逍遥するのか徘徊するのか 
長生きしてねと励まされ 
早死した者に渡るはずだった掛け金で 
若干肉付きを良くした
白い睫毛の骨格標本が
予言者のようにリードに繋がれ 
犬を伴って横断歩道手前で点滅する
 消え去った過去にも行けず
 死後の未来にも行けず 
 宙空に浮遊する 儚い泡




お互い様だ
 機械の鎚音と移動する車の海鳴りと太陽
君たちは元気で働け
 食べなきゃ死ぬという命題のために
暑すぎて
 チッともロマンチックじゃないから
夏はもう仕舞だ