読書記録です。
「年初に宣言したくせに厚い本じゃないじゃん」と思った方、昨年読んだ本です。
『日本人のためのイスラエル入門』
大隅 洋 著
ちくま新書
★ 異論ある方もいらっしゃるかもしれませんが、ここではイスラエルを「国」と呼ぶことにします。言葉選びが楽なので。
■ 読んだきっかけ
本屋で見かけて。
この2年ぐらい、GSTVで高品質ダイヤモンドメーカーとしてイスラエルの企業が紹介されるのを目にしたり、最先端の軍事技術やサイバー技術にイスラエルの企業が関わっているという話を聞く機会が多かったりしていて、付加価値の高い産業が盛んな国なのかしら、と興味を持っていたので。
■ 中身
著者は外務官僚だった方で、2017年から2019年までの2年間、在イスラエル日本大使館公使を務めていたそう。そのため、実際に住んでみてイスラエル人と交流するなかでリアルに感じ取ったことはもちろん、他の国の外交官が見たイスラエル人についての話などもあり、この著者でなければ書けなかったであろうエピソードや観点が詰まっている本です。
さらに、語り手が外交官だからこそ政府要人が外国を訪問することの重要性についてもよくわかるし、近年イスラエルがイスラム諸国と国交を回復し始めた情勢の変化も説明されていて、国際ニュースの意味を学ぶこともできます。
また、話題の新型コロナウイルスのワクチン接種がやたら早かったのも理解できるようになります。
細かい章立ては、裏表紙の帯を参照ください。
ちょっと雑に扱ってしまったらしくて右側がヨレヨレ。反省。
■ 感想
本当に学びの多い本でした。読んでよかった。面白かった。
これまで私がぼんやりと抱いていた、「揉めごと多くて大変そう」とか「乾燥してて日差し強そう」といった外野的なイメージから、イスラエルの国内に入り込んで地元の人とじっくり話したような感覚になれます。そのくらい情報量が多い。
そもそもイスラエルって、パレスチナ自治区以外はユダヤ人ばっかりが住んでるイメージだったのですが、そうではないのね。もちろん国民の4分の3がユダヤ人なのですが、ユダヤ人の中にも「世俗派」と「超正統派」に分かれていたり、世界に散っていたユダヤ人が移住してきた結果、出身が旧ソ連だのイギリスだのアメリカだのと母語も育ちも違うユダヤ人が混在しているとのこと。人口の2割を占めるアラブ人も、全員がイスラム教徒というわけではなく、キリスト教徒のアラブ人もいるそうで。
他にも、エルサレムの中でも旧市街を含む東エルサレムに住むアラブ系住民は、「イスラエル人」ではなく「東エルサレム住民」という宙ぶらりんな扱いなのだとか。
兵役があるのは知っていたけど、一緒に訓練を受けた同期生との絆が強く、兵役が終わって社会に出た後にも人脈として残り、それがイノベーションにつながっているとか。
一番驚いたのが、ユダヤ教の超正統派の人たち(男性だと、黒い帽子と黒い上着を着て、だいたいヒゲをたくわえている)が、私たちが思う「仕事」には就いておらず、生活保護で暮らせるということ。
なぜそれが許されるのかというと、建国時にイスラエル政府が超正統派の協力を得るために、彼らの権利を保障したからなんだって。だから彼らは律法(トーラー)を一日中読むことを仕事にできて、兵役も免除、宗教的権威も独占して、政治的な発言権も強いんだって。
そんでもって彼らは、ユダヤ教の偉い先生に指名された女性と結婚して家庭を持つのだけど、その出生率は約6.5だって(世俗派を含む全ユダヤ人ですら3.11もあるそうなんだけど)。
なんかもういろいろと衝撃的でいまだに消化できないわ。まあ、超正統派の方に会ったことないからどんな暮らしかはわからないし、みんなお坊さんなんだと思えばいいのだろうけど。
また、印象的だったのは、ユダヤ人の危機意識について。軍需産業やサイバー産業を発展させているのは、周辺のイスラム諸国から地理的・歴史的に攻め込まれるリスクが高いせいだと思っていたのですが、それが第一の理由ではないようなのです。
第二次世界大戦やそれ以前の歴史から、ユダヤ人は他の国や民族から簡単に切り捨てられてきたので、この先も同じようなことが起こりうると思っている。(確かに、中世にペストが流行ったときにも、不満や不安がユダヤ人に向けられた結果、虐殺された事件もあったと聞く。)最終的に自分たちを守るのは自分たちしかいないという意識が強くあって、それが外交・産業・兵役・食料自給率といった国策にも表れている、ということらしい。
千年単位の遥かな歴史がこんなにも影響を及ぼす国があるとは。イスラエルの建国自体は最近なのに、引きずっている歴史はとんでもなく濃く長いなんて、なんだか不思議。
【おまけ、というか愚痴】
この本の前に、ダイヤモンドの歴史の本を読んでいたのですが、そこではユダヤ人との関係性が多く語られていました。それによると、イスラエル建国当初はダイヤモンド産業が基幹産業だったようですが、現在は他の産業が大幅に伸びてきたために、存在感は薄くなっている模様です。
なお、そのダイヤモンドの歴史の本は文章に難があり、紹介する気になれません。日本語だから主語や目的語を省略するのは別に構わないのだけど、解釈が何通りも考えられる文で省略する(しかもそれが頻発する)のは許しがたい。その上、文章の構成もわかりづらい。(私の読解力の問題かもしれないけど、でも大体の本は快適に読めているから、可能性はとしては低い。)
著者が文章下手なのは仕方がないとして、担当の編集者はなんでこんな文章で世に出していいと思ったのか。史料価値はあっても読み物としての価値はないわ(プンスカ)。
■ アクションアイテム
・今後もイスラエルに関するニュースに注目する。
・ユダヤ人の歴史に関しても知識を深めたい。
あと、ハッシュタグ「イスラエル」が公式だったから他の記事を覗いてみたんだけど、ゾワゾワするのばっかりだった。どうしよ。