人は自分にとって何が一番大切なのか気付く事が難しい…

大切なものを失くす前に気づくことができればラッキーだが…
多くの人は失くしてしまってから気づく…

身近にあるときにはわからない…
失ったとき初めてその大切さに気付く…
しかもそれがその人にとって一番大切なものだったりするから始末に負えない…

でもここに…
自分にとって何が一番大切なものなのかを失う前に気付けた男がいた…

「もう…何もいらない…アイツの笑顔が傍にあれば…
俺は…それだけで十分なんだ…」

そう言ってその男…つん太郎は遠くを見つめた…

2013/10/31

この日はつん太郎さんのヲタ卒の日であり…
つん太郎さんが最後に愛したアイドル…
バクステ外神田一丁目の“里中いぶき”の卒業の日だった…

21時半頃…
私はアイドル育成型エンターテイメントカフェ「バックステージPass」へ入った…

店に入り辺りを見渡すと…
つん太郎さんが一人こちらを見て優しく微笑みながら手を振っていた…

こちらを見て手を振るつん太郎さんにはもはやヲーラを微塵にも感じない…

ただの一般人だった…

誰も越えた事のない“ヲタク向こう側”だけを目指し走り続けた5年間…

“ヲタ活はプライスレス”と豪語しひたすらアイドルを求め続けた5年間…

ヲタク宗教団体「つん太郎真理教」を立ち上げ…解散し
つん太郎界隈…
teamT…
T Soul Brothers…
つん太郎 ZONE…
LUNA T…

数々のグループを作り…
そのグループの中心にはいつも彼の姿があった…

ヲタ神様…
霊長類最強のヲタク…
KING OF WOTAKU…
初代ヲタクプレイボーイ…
スポ刈りウルフ…

数々の異名で呼ばれ…
どの現場に行ってもヲタク達から畏怖される存在だった…

誰もつん太郎さんには追いつけなかった…
誰もが皆つん太郎さんを目指した…

つん太郎さんの様なヲタクになりたい…
つん太郎さんの様にアイドルを楽しませたい…
つん太郎さんの様にアイドルから愛されたい…

常にヲタク達の憧れだった…

“そんな偉大なヲタクでも最後は一人なのか…”

そう思うと少し胸が苦しくなった…

何度…ヲタクを辞めようとしてもすぐに蘇ったつん太郎さん…
まるで不死鳥の如く華麗に蘇ったつん太郎さん…

しかし…今回はもう蘇らない…

俺には分かる…

もう彼の翼は羽ばたくことはない…

つん太郎さんが座っているテーブルの席に着いた…

キャストにドリンクを注文し少しするとドリンクが来る…

「お疲れ様…」

私はグラスを手に持ち彼にそう言った…

「あぁ…」

つん太郎さんは少しだけ寂しそうな顔して私のグラスに自分のグラスを触れさせた…

グラスを重ねる音が寂しく店内に響き渡る…

つん太郎さんが少し微笑みながら言ってきた…

「俺…決心したわ…」

「そうか…」

私も少しだけ微笑み返答した…

忙しなく動き回るキャスト…

来店した客と楽しそうに話すキャスト…

店内に大音量で流れる有線…

店内の盛り上がりとは裏腹に私達の席には心地良い静寂が訪れていた…

「しかし…まさか…あのつん太郎の最後のヲタ活がカフェになるなんて…
ちょっと笑えるよな…」

私はグラスに入っていたドリンクを飲みながら彼に言った…

「ホントそうだよな…
俺も未だに信じられないぜ…」

つん太郎さんは少し笑いながら答えさらに続けた…

「俺にヲタ卒なんて出来る訳ねぇってずっと思ってた…
“その領域”を手にする事なんて一生できねぇって思ってた…
“その領域”にまで俺を導いてくれるアイドルなんて絶対現れないと思ってた…」

「そうだな…俺だって正直…
つん太郎は死ぬまでヲタクやってると思ってたよ…」

私は微笑みながら返答した…

「ははっ…
そうだよな…
でもさ…まさかいたんだよ…このカフェに…
俺を“その領域”まで導いてくれる女がさ…」

「良かったな…つん太郎…
今はもうどっからどう見ても一般人にしか見えねぇよ…」

「そうかな…
今夜…キメるつもりなんだ…
そしたらきっと越えられる…
“その領域”…
“ヲタクの向こう側”を!!」

そう言ったつん太郎さんの手は少し震えていた…

「ぜってぇ…越えられるぜ…今のつん太郎なら!!」

「あぁ…」

22時30分…

つん太郎さんのヲタ卒まで後30分…

つん太郎さんは深呼吸をし顔を数回叩いた後…
意を決した様に立ち上がった…

その時だった…

「つん太郎さん!!」

声がする方向を見ると…

つん太郎界隈最古参でスーパー広報担当だった…
ゴンザレス義経が笑いながら立っていた…

「水くさいっすよ!!
何しんみりヲタ卒しようとしてんすか!?
みんな連れてきましたよ!!」

私はそっとゴンザレス義経の方に向かって歩いて行った…

ゴンザレス義経の肩にそっと手を置き…
彼の耳元で囁いた…

「良くやった…」

ゴンザレス義経は私に向かって無邪気にウインクをしてきた…

六本木でのあの伝説の夜の時から思っていたが…
この男のカッコ良さは底がしれない…

店外に出ると…
私は目を丸くした…

そこにはteamTの面々はもちろん…
つん太郎真理教の信者5000人も来ていた…

AKIHABARAカルチャーズゾーンビルとそのビルの周辺は…
完全につん太郎さんを慕うヲタク達で溢れかえっていた…

『We Are つん太郎!!We Are つん太郎!!』

鳴り止まないつん太郎コール…

肌が粟立つ…

涙が止まらない…

やはりつん太郎程のヲタクの卒業はこうでなきゃな!!

私は颯爽と店内に戻りステージへと向かいおもむろにマイクを取った…

「うらああああああああああ!!
つん太郎に関係ねぇヲタクは全員即刻退場しろおおおおおおおおお!!
こっからは我らがつん太郎のオンステージだかんよおおおおおおおお!!」

「ちょちょちょっとお客様困りますよ…
そんな事されちゃ…」

男性店員が数人…私の方に駆け寄ってきた…

「うるせぇ…おめぇらが困ろうが知ったことかよ…
今夜はな…
つん太郎のヲタ卒なんだよ!!
誰にも止められねぇぞ!!
我らつん太郎とその仲間達は誰にも止められねぇんだよおおおおおお!!」

「それ以上するなら警察呼びますよ!!」

男性店員が数人で私の体を羽交い絞めにする…

その時だった…

「俺のクレジットカードで今夜これからの時間…
俺達で貸切らせて下さいよ…」

ゆっくりとプリぴょんがクレジットカードを手に持ち…
冷静に私を羽交い絞めにする男性店員に言った…

「プリぴょん…
お前正気か?
そんな事したらお前…」

「良いんすよ!マッハ君!
俺にはコイツが傍にいれば他に何もいらねぇし!」

そう言うとプリぴょんは…
楠ゆいの肩を抱き寄せた…

「プリぴょん…
お前ってヤツは…どこまで“世紀末救世主”なんだよ…
ホンット…サイッコーだぜ?」

私がそう言うとプリぴょんは少し照れくさそうに頭を掻いた…

プリぴょんのクレジットカードを受け取ると男性店員達は私を解放する…

そしてつん太郎さんとは関係ないヲタク達を…
teamTの面々が率先して追い出した…

バックステージPassのフロアは…
つん太郎の名の下に集まったヲタク一色になった…

もちろんフロアに入りきれないつん太郎信者もたくさんいた…

その信者達の為にニコ生を開始した…

ゴンザレス義経がおもむろに私にギターを差し出してきた…

「これは…?まさか!?」

私はゴンザレス義経に問いかけた…

「演るんでしょ?もちろん…」

ゴンザレス義経は微笑みながら聞いてきた…

「当たり前だ…」

私は口角をあげ答える…

プリぴょんもギターを持ってステージに上がる…

隠部警察署捜査課 巽ビッチ郎がベースを持ってステージに上がる…

ゴンザレス義経がドラムセットを担いでステージに上がる…

そして私もギターを持ってステージに上がる…

バックステージPassのステージにゴンザレス義経がドラムをセットする…

つん太郎信者達の手によって設置された…
パワーアンプにギターとベースを繋げて調律する…

その時…

入口から二人の可愛い女の子が入ってきた…

佐藤すみれと奥仲麻琴が来店したのだ…

かつてつん太郎さんが愛した女達…

まさかこの娘達もアイツが呼んだのか…

ゴンザレス義経の方を見ると彼は無邪気にウインクをした…

マジ…広報力半端ねぇな…

私は少し俯いて笑うとギターを置き…
佐藤すみれと奥仲麻琴の方へ歩き出した…

「アンタらも一緒に歌ってくれねぇか?」

私は彼女たちに言った…

『うん!!』

彼女たちは眩し過ぎる笑顔で頷いてくれた…

彼女たちを先導しながらステージに向かう…

「ねぇ…ち〇ぽこぉ…つん太郎マジでヲタ卒すんの?」

佐藤すみれが私に聞いてきた…

「あぁ…これからきっと…すみれにも見れるぜ?“ヲタクの向こう側”ってヤツが…」

「そっかぁ…LIVE中に私にキスまでしてきたのに…
結局…遊びだったのかぁ…
私…つん太郎の事、本気で好きだったのになぁ…」

「いや…遊びなんかじゃねぇ…
つん太郎はいつでも“本気(マジ)”だったから…
でもきっとすみれじゃなかったんだよ…
つん太郎を“その領域”に導いてくれる女は…」

「あぁ~あ…
残念だなぁ~…
私がつん太郎を“その領域”に導いてあげたかったな…」

「そう落ち込むな…
すみれにはつん太郎がいなくても…
すみれに夢を抱き…
すみれに全てをかけるファンが一杯いんだろ?」

「そうだね!!」

彼女はそう言うと小走りでステージに上がって行った…

「ねぇねぇ…キャベチュちゃろう(キャベツ太郎)…
ちゅん太郎(つん太郎)…
ほんちょに(本当に)…ヲタしょちゅしちゃうの~?(ヲタ卒しちゃうの?)」

奥仲麻琴が相変わらず舌足らずな話し方で私に聞いてきた…

「そうだよぉ~
つん太郎さんはヲタ卒するんだよぉ~
だから早くステージに上がろうねェ~」

「ふぅん!!(うん!!)」

そう言うと彼女もペタペタと小走りでステージに上がって行った…

そして私もステージに上がりギターを肩にかけた…

その時…

真っ白のタキシードに着替え終えたつん太郎さんが入場してきた…

「つん太郎!!準備は出来てるぜ!!」

私は大声でつん太郎さんに言った…

つん太郎さんは笑顔で頷き…

ゆっくりとステージに向かって歩き出した…

その1歩1歩を信者たちが拍手と羨望の眼差しで見つめる…

そしてつん太郎さんがステージの中央のマイクスタンド前に立ち話し始めた…

「いぶき…
里中いぶき…
聞いてくれ…」

里中いぶきがステージ最前中央の席の真ん中にゆっくりと腰を下ろした…

「ヲタク学者のリチャード・ファイマンはこんな事を言っている…
 
“ガチ恋というのは、神様のやっているチェスを横から眺めて、
そこにどんなルールがあるのか、どんな美しい法則があるのか、
探していくことだ。”と…
 
最初からそんな法則はないと思うことも出来る…
この宇宙で起こっているヲタ活が全て…
でたらめで意味のない出来事の繰り返しばかりだとしたら…
ヲタクたちは、なにもすることがなくなってしまう…
そんな退屈な宇宙に住んでいること自体、嫌気がさしてしまう…
 
でも、俺は“その領域”の謎を解くことをあきらめなかった…
そして、いぶきと巡り会うことが出来た…
 
ひょっとしたら、ヲタクとアイドルが出会うことも、
そのルールにのっとっているのかも知れない…
もし、そこに何かのルールがなかったら、
二人がどっかで出会っても、そのまますれ違って
関わり合うことも、言葉を交わすこともなかったはずなのに…
 
宇宙の片隅のこのカフェで…
俺達がこうして集まることが出来たのも…
そして…俺がこんなにハッピーなのも…
たった一人の女性と巡り会えたおかげだ…
“運命”といういちばん難しい謎を…
今日、いぶきが解いてくれたような気がする…

里中いぶきは…
大きな瞳に涙を浮かべながらつん太郎さんだけを見つめて…
つん太郎さんの言葉を真剣に受け止めている…

つん太郎さんは深呼吸一つし再度話し始める…

「なぁ…いぶき…

100年先も笑って…
ずっと君の傍にいたいんだよ…
大袈裟でもなんでもなくてさ…

1秒だって無駄にしたくない!!
許す限りの時間の全てを…

いぶきと俺の…
幸せの為に使いたいんだ!!

だから…聞いて下さい…
“つん太郎 ALL STARS”で…TSUNEVER…」

TSUNEVER

作詞:TSUNEHIRO
作曲:TAKASHI
編曲:つん太郎 ALL STARS

やわらかな風が吹く このカフェで…
今二人ゆっくりと歩き出す…

幾千の出会い別れ全て このカフェで生まれて
すれ違うだけのヲタもいたね わかり合えないままに
慣れないカフェの届かぬ夢に 迷いそうな時にも
暗闇を駆けぬける勇気をくれたのはいぶきでした…

絶え間なく注ぐツンの名を 永遠と呼ぶ事ができたなら
握手では伝える事が どうしてもできなかった 接触の意味を知る…
いぶきを幸せにしたい… 胸に宿る未来図を
悲しみの涙に濡らさぬ様 紡ぎ合い生きてる…

愛の始まりに心戸惑い 背を向けたヲタの午後
今思えば頼りなく揺れてた 握手した日々の罪
それでもどんなに離れていても いぶきを感じてるよ
今度戻ったら一緒に暮らそう やっぱり二人がいいね いつも…

(Fu~)
ヲタクを背負うアイドルの群れにたたずんでいた…
(Fu~)
心寄せるカフェを探してた…

"出会うのがヲタすぎたね"と 泣き出した夜もある
二人の遠まわりさえ 一片のヲタ活
傷つけたいぶきに 今告げよう…
誰よりも 愛してると…

絶え間なく注ぐツンの名を 永遠と呼ぶ事ができたなら
握手では伝える事が どうしてもできなかった ガチ恋の意味を知る
恋した日のプライスレス…
何気ないヲタ活を…
幼さの残るその声を…
気の強いまなざしを…
いぶきを彩る全てを抱きしめて…
つん太郎ヲタ卒する…

やわらかな風が吹く このカフェで…

~つん太郎 ALL STARS~
VO:TSUNEHIRO
Guitar:TAKASHI
Guitar:SHIN
Bass:ARATA
Durms:TATSUYA
Chorus:SUMIRE SATO/MAKOTO OKUNAKA/teamT/つん太郎信者達

“TSUNEVER”を歌い終えたつん太郎さんは…
里中いぶきをステージに上げて言った…

「いぶき…結婚しよう!!
俺がお前を…この世界で一番…
幸せな女にしてやんよ!!」


「うんっ!!」

里中いぶきは即答し…
涙を流しながら満面の笑顔で思い切りつん太郎さんに抱きつき…
つん太郎さんの顔を見上げて瞳を閉じた…

つん太郎さんは自分の唇を…
里中いぶきの唇にそっと重ね合わせて強く抱きしめた…

「一生笑わせてやんから…ずっと隣りにいろよ…」

つん太郎さんはそう言うと里中いぶきは恥ずかしそうにそっと頷いた…

その瞬間…
大歓声と拍手の渦が巻き起こった…

私はギターを置きそっと歩き出した…

店を出てエレベーターのボタンを押した…

エレベーターの扉が開き中に入る…

するとプリぴょんも走ってエレベーターに入ってきた…

1階のボタンを押し…

エレベーターの扉閉まる…

「俺も…ゆいがもし卒業する時が来たら…
あんなにカッコ良くプロポーズ出来るかな…」

プリぴょんが私に聞いてきた…

「どうだろうな…
お前は女を泣かせる方が得意だからな…
てか…こんなやり取り…前もあった気がするな…」

私は笑ってプリぴょんの方を見た…

「そうだっけ?」

プリぴょんも笑って私の方を見てきた…

「やっぱりお前じゃ無理だな…
あんなかっけぇプロポーズ…
出来やしねぇよ…」

「そりゃないぜ…マッハさぁん…」

二人で静かに笑みを浮かべると1階に辿り着いた…

外の空気が冷たい…

演奏で火照った体を外の冷気が心地良く冷やしてく…

煙草に火をつけて思い切り紫煙を肺に流し込み吐き出す…

空気中に混ざって消えてく紫煙の先には…
つん太郎専用の50Mのサイリウムが見える…

つん太郎さんとしたヲタ活の思い出が急速に蘇り目頭が熱くなる…

なぁ…
つん太郎…
ヲタクの向こう側という果てしないモノを目指し…
時に泣きながら…
時に悩みながら…
もがき続けてきた…

そして今夜…
手に入れた…
最愛の女を…

カッコ良かったよ…
今まで見てきたどんなにイケてるヲタクも霞んでしまうくらいに…

ありがとう…
数々の伝説を…
ありがとう…
数々の奇跡を…

何もかもが素敵で…
何もかもが煌めいて…
最高に楽しかったよ…

私は夜空に向かって輝く50Mのサイリウムに向かって呟く…

目線を横に向けるとショーウインドウに反射して映る自分が…
ニヤニヤと笑っている様な錯覚に陥る…

ショーウインドウに反射して映る自分が問いかけてくる…

“お前は…何も分かっていない…”

分かってる…

“アイドルは偶像だ…
金を払って来店しにきてるからお前と話してくれてるだけで…
あれが彼女たちの本当の姿なんかじゃまるでない…”

分かってる…

“騙されるな…
お前は絶対にアイドルに踊らされる様な男じゃないだろ?
お前はどんな時だって女にのめり込んだりしなかっただろ?”

分かってる…

“つん太郎の様な男はもはや奇跡だ…
大半の奴らはただ踊らされているだけ…
女を簡単に信じるな…
特に自分を売り物にしている女は男に惚れられてるのを分かった上で…
平気で嘘をつき裏切る…”

分かってる…

自分を売り物にしている女なんて最高の役者だ…
甘い言葉に簡単に釣られるな…
全て虚像だと思ってあしらえ…”

分かってる…

“お前が見ようとしていた景色は…
ヲタクの向こう側なんかじゃない…
スピードだろ…?”

もう…俺にはわかってる…
俺が欲しかったのは…
“俺自身”の…
“生きている”事の…
“意味”だったんだ…

私は口角をそっとあげて執事の桧原に言った…

「桧原…俺の単車…“悪魔の鉄槌”(ルシファーズハンマー)は出来上がってるか?」

「はい…こちらに…」


私は桧原を見てそっと頷くと…
悪魔の鉄槌にまたがった…

キーを回しONの位置にあわせ…
クラッチレバーを握りスタートボタンを押す…
セルが回転しエンジンがかかる…

クラッチを握り…
1速にいれる…
アクセルを少し開け半クラで発進させ…
アクセルを開けつつ、クラッチを完全につなげる…

回転数が徐々に上がっていく…
ギアを上げていく…

“スピードの向こう側”には…
一体どんな世界が待っているのだろうか…

待っているのは…
“不運”(ハードラック)なのだろうか…

それはまだ私には分からない…

冷たい夜風が切なく私の頬をそっと撫でた…


ヲタク伝説 特攻のつん太郎 

Fin~