武経七書とは、北宋・元豊三年(1080年)、神宗が国士監司業の朱服、武学博士何去非らに命じて編纂させた武学の教科書です。
当時流行していた兵書340種余の古代兵書の中から『司馬法』『孫子』『呉子』『六韜』『三略』『尉繚子』『李衛公問対』の七書が選ばれ、武経七書として制定されました。
その中の『李衛公問対』は唐の太宗李世民と李靖の対話形式で構成されている兵法書で、別名『唐太宗李衛公問対』『唐李問対』ともいわれます。
上,中,下の3篇から成っており『孫子』、『呉子』をはじめとする古代の兵法、歴史的故事の意味、唐代初期の戦略などきわめて多岐にわたって論じていますが、兵法の文献としてはあまり評価されていません。
色々な有名人が出てくるので読み物として楽しむのもよいのではないでしょうか。
3篇の概要を以下に記します。
<strong>上巻</strong>
 兵における「奇」「正」について論じています。
<strong>中巻</strong>
 兵における「虚」「実」、分散と集中、隊伍の編制、陣形について論じています。
<strong>下巻</strong>
 実例や名言を引用しつつ、様々な用兵の要点について論じています。
武経七書の中では一番成書年代の新しい書ということもあるのですが、『孫子』の解説書といっても良い内容になっています。
また兵法の極意だけでなく、現在では伝わらない書を含め様々な兵書の解説、評論などを実戦を例に出して述べていることから、他の多くの文献の資料としての価値も高い書です。
<a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/483342097X/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=483342097X&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=a36a2f46f17f763a047b7cac38de4fcf"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=483342097X&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=483342097X" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00TQP3YDA/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B00TQP3YDA&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=07866112b7bbc1af1123d75c364cc230"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=B00TQP3YDA&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=B00TQP3YDA" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/4833420988/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4833420988&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=f8d6ba0b2a024fdbea203f13a1692244"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=4833420988&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=4833420988" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00TYNA3OW/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B00TYNA3OW&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=319ce9a5ef459bdd75b1be253e1eab3b"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=B00TYNA3OW&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=B00TYNA3OW" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00ZRT9D5C/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B00ZRT9D5C&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=c82bf3e8e6888f6af395de236da37ce2"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=B00ZRT9D5C&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=B00ZRT9D5C" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />
<a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/4122044944/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4122044944&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=3a93e41e57eb5ea509b2d3abd7dcd7f5"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=4122044944&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=4122044944" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/4122043719/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4122043719&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=c86911d66e2f471084e3277b81d089f6"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=4122043719&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=4122043719" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/4198604770/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4198604770&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=ec6b1226f179de790c44561eefe06d3d"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=4198604770&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=4198604770" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00GMAT4FE/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B00GMAT4FE&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=f827ef538ce9f62990dc075add1d650c"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=B00GMAT4FE&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=B00GMAT4FE" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/B01M2249JH/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B01M2249JH&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=3ab9b2ba1434d46a8bb069d7dd5221e2"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=B01M2249JH&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=B01M2249JH" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a target="_blank"  href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/B06X6K59PK/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B06X6K59PK&linkCode=as2&tag=kiyonorishuto-22&linkId=0fa6fcbce44353df39b864cdacf13cd9"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&MarketPlace=JP&ASIN=B06X6K59PK&ServiceVersion=20070822&ID=AsinImage&WS=1&Format=_SL250_&tag=kiyonorishuto-22" ></a><img src="//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=kiyonorishuto-22&l=am2&o=9&a=B06X6K59PK" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />
以下参考までに、現代語訳にて一部抜粋です。

<strong>【上巻】</strong>
太宗「高麗がしばしば新羅を攻めている。朕は使いを遣わして諭しても聞こうとしない。これを討とうと思うが、どうか」
李靖「高麗の蓋蘇文を調べますに、自らの用兵術に頼み、中国に討伐されるとは思っていません。ですから命に叛くのです。わたしに兵3万をお預けください。 これを虜にしましょう」
太宗「3万では少なく、遠征は遠い。どのような戦略で臨むのか」
李靖「正兵を使うつもりです」
太宗「突厥を平定した時に、そなたは奇兵を使っている。今度は正兵を使うというのはどうしてか」
李靖「かつて諸葛亮は猛獲を7回捕らえましたが、まさしく正兵を用いたものです」
太宗「なるほど、晋の馬隆が涼州を討伐した時、諸葛亮の八陣図をもとに偏箱車を作ったという。戦場が広ければ鹿角車を並べて布陣し、 狭い道では車の上に木屋をつくって戦いながら前進した。そなたの言うように古人は正兵を重んじていたのだな」
李靖「臣が突厥を討伐した時も、西に進むこと数千里。もし正兵でなければ耐えられなかったでしょう。
偏箱車や鹿角車は用兵の要です。馬隆も古の兵法をよく学んだのです」
太宗「朕が宋老生を破ったとき、わが軍が少し後退し、敵が攻め入ったところを朕は自ら鉄騎兵を率いて横からこれを突いた。敵軍は分断されて総崩れになり、 宋老生を捕らえることができた。これは正兵というべきか、奇兵というべきか」
李靖「陛下の用兵は天性のものであり、学んで得られたものではありません。臣が思いますに、黄帝よりこのかた、 正兵を先にして奇兵を後にし、仁義を先にして策略を後にしました。
さて霍邑の戦いに陛下は義をもって臨みましたので、これは正兵です。右軍の建成様が落馬したため右軍が後退せざるを得なかったのは奇です」
太宗「あのとき後退したので危うく大敗するところであった。それを奇というのはなぜか」
李靖「前進するのを正、後退するのを奇と言います。あのとき右軍が後退しなければ宋老生は進撃しなかったでしょう。 宋老生は兵法をわきまえなかったので陛下の虜となったのです。奇を変じて正と成すとは、これをいうのです」
太宗「なるほど霍去病の用兵は孫呉の兵法にかなっていたというが、まことにそうであろう。右軍が退いた時、太祖は色を失ったが、朕が奮戦したので勝利することが出来た。 これも孫呉の兵法にかなっていたというわけで、まことにそなたの言うとおりである」
太宗「軍を撤退させることは、すべて奇と言ってよいか」
李靖「そうではありません。撤退の時、旗はバラバラで金鼓も揃わず、号令も混乱しているのなら、ただ敗走しているだけで、奇とは言えません。 これらが全て揃っているなら、敗走しているわけではなく、そのなかに必ず奇を秘めているのです」
太宗「霍邑の戦いで右軍が退いたのは天の采配であったが、宋老生を捕虜にできたのは人力のいたすところであると言ってよいか」
李靖「正から奇へ、奇から正へと変化することが出来なければ、どうして勝つことが出来ましょう。用兵に長けた者は、その機微を心得ているのです。 ただし、奇正の変化は、人智をもって極め尽くすことは出来ません。それで天意に帰しているのです」
太宗は大きくうなずいた。
太宗「奇と正はもともと別物なのか、それとも状況に応じて使い分けるものなのか」
李靖「曹公(曹操)の『新書』に『自軍の兵力が2倍なら、自軍を正と奇の半分に分ける。5倍の兵力なら、正を3、奇を2に分ける』とあります。 しかしまた『孫子』には『戦には奇と正から成り立ち、その変化は無限である』とあります。これこそ至言というべきであり、奇と正とは分けることが出来ません」
太宗「実に奥深い話だ。しかし曹操もそのことはわかっていたにちがいない。『新書』は部下に教えるために書いたもので、奇正の本義を書いたものではあるまい。
ところで曹操は『奇兵は側面から攻める』と記しているが、これについてどう思うか」
李靖「曹操は孫子の注釈のなかで『先に出て戦うのを正とし、後から出ていくのを奇とする』と記しています。思うに、主力の戦いは正とし、 状況に応じて出す部隊を奇としているのでしょう」
太宗「朕は正で対しながら敵には奇と思わせ、奇で対しながら敵には正と思わせるようにした。これは『孫子』のいう『敵の動きが手にとるようにわかる』 ということなのだろうか」
李靖「陛下はまことに英邁でございまして、古の兵法家を凌いでおられます。ましてわたくしなど遠く及ぶことが出来ません」
太宗「分散と集合を繰り返す場合、どちらが奇でどちらが正なのか」
李靖「状況に応じて正にも奇にも変化するので、味方はどちらで勝ったのかわかりません。分散と集合の妙を窮めたのは、 ただ孫武だけです。呉起より後の人は彼に及びません」
太宗「呉起の兵法はどのようなものであったか」
李靖「呉起が魏武侯に兵法に尋ねられた時『身分が低く勇気ある者を選んで攻撃させ、すぐに退却させます。 この退却を罰してはなりません。敵の出方をうかがうのです』と言ったことがあります。孫武のいう、正兵をもって戦うやり方とは考えを異にします」
太宗「韓擒虎が『李靖となら孫呉を語れる』と言ったが、これも奇正についてのことなのか」
李靖「韓擒虎は奇正の奥義をまったく理解していません。奇正が絶えず変化し、窮まりのないことなど知る由もないのです」
太宗「古に奇兵を繰り出して相手の不意をついた例がある。これは奇正の変化に則ったことではないのか」
李靖「多くの戦いはわずかな戦略、わずかな徳で勝っただけのことで、兵法を論ずるには値しません。たとえば謝玄が前秦の符堅を破ったのも、符堅に徳が欠けていたからです」
太宗「符堅のどこに徳の欠けたとことがあるのか」
李靖「全軍が総崩れになったのに、慕容垂の軍だけが無傷であったのは、間違いなく彼に陥れられたのです。味方に陥れられながら敵に勝つことはできません。 符堅は無策であったというべきでしょう」
太宗「わずかでも勝利する条件のある方が、条件のない相手に勝つことは明らかである。これは符堅だけでなく、すべての場合にあてはまるだろう」
太宗「黄帝の『握奇の文』は、『握機の文』とも呼ばれているが、どうしてか」
李靖「奇と機は音が同じだからです。意味するところはかわりません。わたくしの考えでは、握機は機を掌握するということで全ての戦いに言えることです。 それゆえ『余奇』の奇をとって握奇とするのが正しいのです」
太宗「陣の形は、5に始まり8に終わるというが、これはどういうことか」
李靖「かつて諸葛亮は八行の陣を作りましたが、世に言う方陣とはこれのことです。黄帝の『握機の文』は、ただその概略を示したものに過ぎません」
太宗「天・地・風・雲・竜・虎・鳥・蛇、この8つの陣は何を意味しているのか」
李靖「これは誤って世に伝わったものです。八陣とはもともとひとつの陣形のことで、それをただ便宜的に8つに分けただけです。これが誤って伝えられたために、 竜陣なら竜を象った陣形であるように誤解されたのです」
太宗「陣の形は、5に始まり8に終わるというが、これについて詳しく説明してほしい」
李靖「黄帝は丘井の法を定め、土地を井の字に9つに分けて、耕作させた。軍の陣形もこれにならい、 9つの区画のうち、上下、左右、真ん中の5箇所に布陣して残り4箇所を空地としました。これが陣形は5に始まるということです。
これが後になると、真ん中に大将が布陣し、周囲8箇所に陣を張りめぐらせましたので、8に終わるということです」
太宗「さすがに黄帝の軍制はすばらしいものだ。これを引き継いだ者はいたのだろうか」
李靖「周の太公望は黄帝の教えを受け継いで井田制を布き、太公望亡き後は、斉の人々がその遺法を受け継ぎ、 管仲がこれを受け継いで、桓公を覇者としました。これを節制の軍といいます」
太宗「儒者の多くは管仲を覇者の臣下に過ぎないというのは、彼の兵法が王制に基づいていることを知らないからであろう。諸葛亮は誰もが王業を補佐したというが、 彼も自らを管仲と楽毅になぞらえたというので、管仲は王業を補佐する器であるといえよう」
李靖「まことにおっしゃるとおりです。管仲の制度や『司馬法』などは、太公望の遺法を受け継いだものなのです」
太宗「『司馬法』は司馬穰苴の表したものだというが、本当だろうか」
李靖「斉の威王のときに伝えられてきた『司馬法』を整理し、穰苴の学んだことを追加して、今に伝わる『司馬法』ができあがりました」
太宗「漢の張良と韓信はそれまでの兵法書を182家に分類し、 余分なものを削り取って35家を選んだというが、今に伝わっていないのはどうしてか」
李靖「張良は『六韜』『三略』を学び、韓信は穰苴や孫武に学びました。しかしそれは三門四種に勝るものではありません」
太宗「三門とは何か」
李靖「臣が思いますに、太公望の『謀』81篇、『言』71篇、『兵』85篇を指して三門といいます」
太宗「では四種とは何か」
李靖「漢の任宏が兵法を論じて、権謀・形勢・陰陽・技巧の4つに分類しました。これを四種といいます」
太宗「『司馬法』は冒頭で蒐と狩について書いているのはなぜか」
李靖「蒐狩の目的は、狩の名を借りて兵を鍛えることにありました。ですからこのことを重んじたのです。周成王の岐陽の蒐、 康王の?宮の朝、穆王の塗山の会が行われ、周が衰えると斉桓公が召陵の師を、 晋文公が践土の盟を開きました。
天子は諸侯を招集したり、諸侯を巡行する時に軍事訓練を行いましたが、それは平穏な時にはみだりに軍事行動を起さないことを示すとともに、 農閑期に訓練を行うことで軍備を疎かにしないことを示したのです。『司馬法』の記述方法には深い意味があるのです」
太宗「『春秋左氏伝』に楚の二広の法に触れた部分があるが、これも周の制度に基づいたものなのか」
李靖「『春秋左氏伝』には楚の部隊についても書かれていますが、これも周の制度と同じです。ただひとつ違うところは、楚では主力を100人、支援部隊を50人とし、 会わせて150人が戦車に従う形をとっていましたが、周の制度では軽装備の兵が72人、重装備の兵が3人、合わせて75人が従い、それを三隊に分けました。 楚の兵士数が多いのは、山がちの国で戦車が少なく人が多かったからです」
太宗「春秋の晋の荀呉が狄を攻めたとき、戦車を捨てて歩兵だけで行軍したという、これは正兵というべきか、奇兵というべきか」
李靖「荀呉は戦車を捨てましたが、戦車の隊伍を崩しませんでした。原則は変えなかったのです」
太宗「辺境の地では、漢人と異民族が入り混じっていて、統治が難しい。どうすれば双方の民に不安を抱かせないようにすることができるか」
李靖「漢人に対しては漢人の部隊としての訓練をし、異民族には別の方法で強化にあたり、両者の扱いを混同しないことです。外敵に不穏な動きがあれば、 ひそかに旗印や威服を取り替えさせて、奇計を出して撃ち払うのです」
太宗「それはいかなる策なのか」
李靖「策略を使って敵の判断を誤らせるのです。異民族を漢人に、漢人を異民族に見せかけて惑わせます。戦上手とは、こちらの動きを察知されるのことはないのです」
太宗「朕も同じ意見である。この戦い方をぜひそなたから辺境の将軍に教えてほしい」
太宗「諸葛亮は『統制の取れた軍は、無能な将軍に率いられても負けることがない。統制の取れていない軍は、有能な将軍が率いても勝利できない』と言ったという。 朕には本質を突いた論だとは思えないのだが」
李靖「諸葛亮は感じるところがあって語ったのでしょう。統制を欠いて自滅した例は、枚挙にいとまがありません。それは教育が徹底していないからです。 諸葛亮はこのことを言いたかったのでしょう」
太宗「たしかに兵の訓練は、揺るがせにできないものだ」
李靖「わたくしが古来からの軍制を詳細に調べて図にまとめあげているのも、ただ統制の取れた軍を作りたいからです」
太宗「ぜひそれを作り上げ、完成したら朕にも見せてほしい」
太宗「異民族の騎兵は、奇兵にあたるのか。漢族の弩兵は正兵にあたるのか」
李靖「騎馬は短期決戦に向いており、弩兵は長期戦で威力を発揮します。この両者の長所を使いこなすことが重要です。そこには奇と正の違いなどありません」
太宗「もう少し詳しく述べてほしい」
李靖「わざとこちらの態勢を示してやり、敵が食いついてきたら、すばやく変化して迎え撃つのです」
太宗「松漠・饒楽のふたつの都督を新設することにした。ついては都護に薛万徹を起用したいと思うが、どうだろうか」
李靖「万徹では、阿史那社爾や執失思力、契?何力にとても及びません。彼らはいずれも異民族の出身ですが、戦のやり方をよく心得ています。 どうか彼らを任命してください」
太宗「相手が異民族でも、そなたなら思いのままに使いこなせるようだ」