武経七書とは、北宋・元豊三年(1080年)、神宗が国士監司業の朱服、武学博士何去非らに命じて編纂させた武学の教科書です。
当時流行していた兵書340種余の古代兵書の中から『司馬法』『孫子』『呉子』『六韜』『三略』『尉繚子』『李衛公問対』の七書が選ばれ、武経七書として制定されました。
その中の『尉繚子(ウツリョウシ)』は、中国古典兵法書「武経七書」のひとつで、秦の始皇帝に仕えた名将尉繚の説を収録したものといわれている人間本位の兵法書です。
戦争は悪であり、人にとって好ましくないものという基本的な考え方に立っており、信賞必罰を唱えた法家の強い影響が見られるようです。
『漢書芸文志』には「尉繚31篇」とあるのですが、現存するのは24篇だけとなります。
そのため清代頃から『漢書』に記載されたものとは別の、後に作られた偽書であるという説が出ています。
「武経七書」には、こうした実際の時代よりも後に作られたとされる偽書の疑いのあるものも多いのですが、こうした風評は脇に置いてでも、これらの兵法書は今の時代でも参考にできることが多く纏められている優れた古典です。
ここでは、こうした書物としての中身の本質をきちんと探るための整理を進めておりますので、著者云々のお話しは別の旨をご覧ください。
『尉繚子』自体には当時の戦争についての具体例が多いのですが、「夫心狂目盲耳聾、以三悖率人者、難矣。」と、精神が乱れていて、人の話を聞かないで、物事が見えないような奴はリーダー失格だと書かれています。
当然といえば当然ですが、兵法書の根本はリーダー論なので、その点が経営者に受けるんでしょうね。
『尉繚子』は前半と後半に分けることが出来ます。前半の12篇は、政治・経済・兵法など多岐にわたる問題を取り上げ、 後半の12篇は専ら軍の編成・管理・統制などの問題を取り上げています。
以下、各篇のポイントです。
<strong>【天官篇】</strong>
 戦国末に流行した兵陰陽を批判、知恵により戦うことを述べています。
<strong>【兵談篇】</strong>
 まず国内政治の安定を心がけ、戦争はすみやかに収束することを述べています。
<strong>【制談篇】</strong>
 軍隊内の法制を整備し、管理を徹底することを述べています。
<strong>【戦威篇】</strong>
 戦いには戦意が重要であり、人の和を重んじることを述べています。
<strong>【攻権篇】</strong>
 将軍の普段の心得と、綿密に計画を練ることを述べています。
<strong>【守権篇】</strong>
 守備を徹底し、救援軍の来援を手配することを述べています。
<strong>【十二陵篇】</strong>
 敵を圧倒する十二の心得と、敵に圧倒される十二の欠点を述べています。
<strong>【武議篇】</strong>
 戦争は不義を伐つためのものであり、軍法を執行し任務を遂行することを述べています。
<strong>【将理篇】</strong>
 将軍は公平に、刑罰に軽々しく頼らず慎んで真相の究明に当たることを述べています。
<strong>【原官篇】</strong>
 官吏と法が国の要であり、互いの権限を明確にすることを述べています。
<strong>【治本篇】</strong>
 政治の基本は衣食を充実させることであることを述べています。
<strong>【戦権篇】</strong>
 勝つためには機先を制し、法則を把握することを述べています。
<strong>【重刑令篇】</strong>
 作戦失敗の責任は法により厳しく追及することを述べています。
<strong>【伍制令篇】</strong>
 軍の編成・管理と連帯責任制について述べています。
<strong>【分塞令篇】</strong>
 設営地では部隊内での自由な通行を禁止することを述べています。
<strong>【束伍令篇】</strong>
 処罰に関する規定と、その権限について述べています。
<strong>【経卒令篇】</strong>
 兵卒の管理・統制のための目印について述べています。
<strong>【勒卒令篇】</strong>
 命令の伝達の方法と鼠算式の訓練法について述べています。
<strong>【将令篇】</strong>
 将軍の軍における権限について述べています。
<strong>【踵軍令篇】</strong>
 機動部隊にあたる「踵軍」と遊撃部隊にあたる「興軍」について述べています。
<strong>【兵教上篇】</strong>
 兵の訓練の仕方について述べています。
<strong>【兵教下篇】</strong>
 「戦わずに勝つ」ための方策と、兵士を必死に戦わせる方法などについて述べています。
<strong>【兵令上篇】</strong>
 軍事と政治の関係、敵の虚実に応じて陣形を変えることなどを述べています。
<strong>【兵令下篇】</strong>
 敗戦の責任を軍令によって厳しく追及し、信賞必罰を徹底することを述べています。

一部は『孫子』の内容を受け継ぎ発展させたものですが、『孫子』に比べると反戦的な色はやや薄く、賞罰の厳正を唱えて法制の徹底を説き、そして人事の大切さを述べている点が、他の「武経七書」に比べて特徴のある点です。
むやみやたらと戦乱に駆り立てるのではなく、人事を尽すことを何度も強調すること。
これは、今のうつろいやすい時代には十分に参考となることではないでしょうか。
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以下参考までに、現代語訳にて一部抜粋です。
<strong>【天官篇】</strong>
魏恵王が尉繚子に尋ねた。
恵王「黄帝が百戦百勝することができたのは、刑徳に則って勝ち負けを占ったからだといわれているが、まことだろうか」
尉繚子「それはちがいます。黄帝はあくまでも人事を尽くしただけなのです。
城攻めを例に取りましょう。今、四方から攻め立てても落すことが出来ないとします。天文方位の説に従えば、どれか1つは良い方角にあたるわけで、攻め落とせることになります。 しかし現実はそうではありません。また逆に守りが不十分であれば、どの方角からも攻め落とすことができます。
これで明らかなように、いくら天文で占ったところで、人事を尽くすことには及びません」
尉繚子「天文によれば、河を背にした布陣や山坂を前にした布陣は、敗北するといいます。 しかし周武王が商紂王を討ったときは、済水を背にし山坂を前にしながら商軍を討ち破りました。
また楚の将軍公子心が斉軍と戦ったとき、斉が勝利するという彗星が現れました。しかし公子心は『彗星が何だ』と笑い飛ばし、斉軍をさんざんに破ったといいます。
天文だ方位だといっても、結局は、人事を尽くすことが先決です」

<strong>【兵談篇】</strong>
土地、人口、食糧の3つが揃っていれば、内政は整って民の結束は強くなり、戦争しても勝つであろう。戦争に勝利すれば、内政もいよいよ安定する。 戦争に勝利することと内政の安定は表裏一体の関係にあるのだ。
武力に訴えずして勝つのが君主たるももの勝ち方、武力によって勝利を収めるのが将帥の勝ち方なのである。
兵を起すとき、一時の怒りによって起してはならない。勝機を見出すことが出来れば兵を起し、勝機が見えなければ中止するのである。
将であれば天文、地形、他人に振り回されないこと。寛大で感情に走らず、清廉で利益に目もくれないこと。
将の欠格条件は3つあります。
一.【心狂】精神が平衡を欠いている
二.【耳聾】忠告に耳を傾けない
三.【目盲】判断力に乏しい
このような人間は軍を率いる資格がありません。
大軍勢の場合は、山のようにどっしり構え、林のように静まりかえり、江河の流れのように怒涛の攻めを行う。小軍勢の場合は、燃え広がる火のように行動し、石垣のように圧倒し、厚く垂れ込めた雲のように敵を覆う。

<strong>【制談篇】</strong>
軍事は、まず法制を確立することにある。法制が確立すれば、軍に統制が生まれる。統制が生まれれば、軍規は厳正に保たれる。
こうなれば、金鼓の命令のもと100人の部隊はすべて奮戦する。敵軍を撃破して陣を落すときは1000人の部隊がことごとく戦う。軍を破壊し敵将を殺すときは1万人が刃のようになる。 こうなれば天下無敵となる。
古より、兵卒を編成して兵車を配置してきました。
しかし、以下のことは凡庸な将ではどうすることもできません。
一.攻撃命令が下ったとたんまっさきに敵陣に馳せるのは豪勇の士であり、まっさきに死ぬのも彼らです。これではせっかく敵を倒しても味方の損害は甚大で、戦うほどに敵を利します。
二.兵役に服しながら脱走したり、戦う間際になって敵前逃亡を企てる者がいます。これでは戦わずして消耗します。
三.遠距離では弓矢が威力を発揮し、肉薄したら矛戟が威力を発揮します。ところが攻撃命令が下ったのに兵卒は掛け声ばかりで矢を捨て矛を折り戟を抱えたまま人の後から付いていこうと周りをうかがっている。これでは戦わずして敗れることは明らかです。
四.兵卒も兵車も隊列を乱し、せっかく配置した騎兵も命令を無視して撤退し、全軍なだれをうって敗走します。
もし将が以上の4つを克服すれば、意のままに軍を動かしていかなる高山いかなる大河も踏破し、いかなる堅陣も攻め落とせます。これを克服せずに勝利を望むのは船もないのに長江黄河を渡ろうとするもので、まるで話になりません。
もしわたしの意見を聞いてくださるなら、一人の例外もなく全軍をきびしい統制下におくことができます。たとえ父子の間でもかばい合いを許さないから、 まして一般の人に例外を許さない。
かつて10万の軍で天下に敵なしという者がいた。斉の桓公である。七万の軍で天下に敵なしという者がいた。 それは呉起である。3万の軍で天下に敵なしという者がいた。それは孫武である。
今、各国とも20万の軍を持っているが、彼らにはかなわない。それは、法令禁制を厳格にしていないからである。
法令が整っていなければ、しっかりと管理することが出来ない。王は10万もの軍勢を編成して衣食を支給していますが、戦っても勝てない。これは兵卒の責任ではなく、 管理をしていないことが原因である。
指示命令を整え、賞罰を明らかにし、農業に励まなければ生活できず、戦いで功を得なければ爵位が得られないことを周知させるのだ。そうすれば、民は先を争って農業に励み、 戦では天下無敵の強さを発揮するのだ。
勝利を収めて、土地や民を養うには、必ずすぐれた人材が必要となる。国内に人材がいなければ、天下を支配しようと望んでも失敗におわるだろう。

<strong>【戦威篇】</strong>
戦争には三種類の勝ち方があります。
【道】政治力で勝つ。政治・経済・軍事の充実をはかりながら敵情分析を怠らず敵軍の戦意を阻喪させ統率力を乱して形骸化させ、実戦の役に立たなくさせる。
【威】威嚇力で勝つ。法制を確立して賞罰を明確にしたうえ、武装を整えながら戦意の高揚に努める。
【力】軍事力で勝つ。敵軍を破って大将を殺し、外城を占拠して一斉に弩を浴びせて敵を潰走させて領土を奪い、作戦目的を達成して帰途につく。
将が戦争において頼りとするものは、兵卒である。兵卒に必要なものといえば、それは戦意である。戦意があれば進んで戦うが、戦意喪失すれば敗走する。
軍も動かさず戦闘も交えずに敵の戦意を喪失させるには5つのことに配慮しなければなりません。
一.作戦の策定
二.軍司令の選任
三.進攻の見極め
四.防衛態勢の構築
五.作戦の遂行
あらかじめ敵情を正確に分析してこそ敵の虚に乗じて戦意を奪えます。
戦意とは、兵士の心の問題である。その心をひとつにまとめるのが、すなわち命令である。この命令がしばしば変更されたら、信用されなくなる。 よっていちど命令を出したら、多少の疑念にも目をつぶらなければならない。
したがって将帥も、必ず身をもって先頭に立って模範を示さなければならない。そうすれば部下を手足のように動かすことが出来る。部下の奮起を促さなければ、 犠牲的行為も、勇戦も期待することは出来ない。
土地は民を養うためのものである。城は土地を守るためのものである。戦争は城を守るためである。よって耕作に務めれば民の生活は保障される。 城の守りを固くすれば、土地を奪われることはない。戦力の増強につとめれば、城をおとされることはない。
土地、城、戦力の三者は昔の君主が最も重視したものです。この中でも重視すべきは戦力です。それゆえ昔の君主は戦力の増強に努めたが、その方法は次の5つによります。
一.食糧・物資を備蓄する。不足しては軍事行動に乗り出せない。
二.論功行賞を厚く行なう。不足しては兵卒の奮起を期待できない。
三.有能な人材を抜擢する。不足しては精強な軍にならない。
四.兵器装備を整える。不足しては戦闘力を強化できない。
五.信賞必罰で望む。適正を欠けば兵卒を服従させられない。
この5つの要件が満たされれば、鉄壁の守りから全軍一丸となって反撃に転ずることができるのです。
王者の国は民を富まし、覇者の国は士を富まし、かろうじて存在する国は大夫を富まし、滅亡寸前の国は君主ひとりが富んでいる。
勤め怠らない将帥は、必ず率先して事に当る。そうすれば、長期戦になっても士気は衰えないのである。

<strong>【攻権篇】</strong>
将と兵卒は一体となって行動しなければならない。上下の心が一致しなければ、作戦が決定しても兵は動かず、兵が動いても軍律は守られない。 将帥は頭脳であり、部下は手足に当るのである。
将を心から慕っていなければ、兵は役に立たない。将は兵に恐れられていなければ、兵を手足のように動かすことはできない。兵を従わせるのは恩愛であり、 将の地位を確立するのは威厳である。すぐれた将は、恩愛と威厳をもっている者である。
必ず勝つという勝算が無ければ、軽々しく開戦命令を出してはならない。城攻めをして落とせるという勝算が無ければ、軽々しく攻めてはならない。
義を果たすために戦うのは、率先して行うべきである。だが私的に起す戦争はやむを得ず応戦するという態度で行い、いざ戦いとなっても、 敵が仕掛けてくるのを待ってから戦わなければならない。
戦争にはさまざまな勝ち方があります。
一.作戦計画で敵を圧倒して武力を行使せずに屈服させる勝ち方。
二.野戦で雌雄を決する勝ち方。
三.敵国の都に攻め入って降伏を強要する勝ち方。
いずれにせよ勝利は戦うことによってもたらされるものであり、降伏すればすべてを失ってしまいます。ときには敵のミスで辛勝することもあるが、それは不意を衝かれた敵が自ら混乱に陥った結果です。これは完全な勝利とはいえず、適切な作戦指導による勝利とは言えないのです。
全軍を統制下におくには、組織を整備して命令系統を確立しておかなければならない。兵5人の長として伍を置き、10人には什を、100人には卒を、1000人には率を、 10000人には将を置き、万全の態勢をつくりあげる。
軍を発する時には、敵の戦力を検討しなければならない。こうして命令を下せば、1000里の遠方にいる部隊でも10日、100里の近くにいる部隊ならわずか1日で、 国境地帯に集結することができる。

<strong>【守権篇】</strong>
守るときには、進んで迎え撃つだけで防壁を固めず、退いて守るだけで防御施設を構築しないのならば、よい戦い方とはいえない。
守備をする者は、地の利を占めてそれを失わないことである。守り方は、城壁長さ1丈につき兵士10人で守り、工事人や食事人はこれに含まない。こうすれば、1人で10人に対応し、 10人で100人に対応し、100人で1000人に対応し、1000人で10000人に対応できる。
攻撃側が10万の大軍であったとしても、防御する側に確かな救援軍があるのならば、守りきることができる。逆に確かな救援軍を期待できないのなら、 守りきれる城はない。

<strong>【十二陵篇】</strong>
【威】威信は軽々しく命令を変えないこと
【恵】恩恵は時宜を得ること
【機】タイミングは情勢の変化に即応すること
【戦】戦略は士気を掌握すること
【攻】攻撃は意表をつくこと
【守】守備は意図を察知されないこと
【無過】過失無しは法制を守ること
【無困】困窮無しは事前に準備していること
【慎】慎重は些細なことにも注意を怠らないこと
【智】智謀は大事を掌握すること
【除害】弱点を除くは最後までやりぬくこと
【得衆】衆心を得るは謙虚な姿勢を崩さないこと
【悔】後悔は優柔不断から生じる
【災】災は無辜の民を殺戮することから生じる
【偏】偏りは私心から生じる
【不祥】不祥事は批判に耳を貸さないことから生じる
【不度】収奪は民力の枯渇を招く
【不明】明察を欠くのは讒言に耳を貸すからである
【不実】命令に従わないのは軽々しく命令を下すからである
【固陋】視野が狭いのは賢人を遠ざけるからである
【禍】禍は利益に目がくらむことから生じる
【害】害はつまらぬ人物を登用することから生じる
【亡】国を滅亡させるのは防衛力の増強に努めないからである
【危】危険は命令が貫徹しないことから生じる

<strong>【武議篇】</strong>
戦いは、過ちのない国を攻めず、罪のない人を殺さないのが本来ある姿である。普通であるなら、人の父兄を殺し、人の財産を奪い、人の子女を臣妾とするのは、 盗賊の類である。ゆえに戦争は暴乱を誅し、不義を禁止するものだ。
万乗の国は農業と軍備の充実に努めなければならない。千乗の国は防御強化に努めなければならない。百乗の国は民の生活の安定に努めなければならない。
処刑する相手は地位の高い人物であればあるほど効果があり、賞を与える相手が地衣の低い人物であればあるほど影響が大きい。
情報不足になるのは、国に市がないからである。強大な軍を擁しても、市を管理しなければ、戦に勝つことは出来ない。
兵を起して甲冑にしらみが生じるほど長期戦になっても、有能な将帥は兵卒に勇猛果敢に攻めさせることが出来る。それは兵卒に死を願わさせるのではなく、 恐れさせるからである。
太公望は70歳を過ぎても君主にめぐり合わなかったが、文王に会うや否や、 三万の軍を率いて、一戦して天下を治めた。ゆえに「良馬は優れた乗り手があってはじめて遠路を走り、賢者は優れた君主にめぐりあってはじめて大道を明らかにすることができる」 というのである。
周武王はわずかの兵で紂王を滅ぼしたのは、周の側に瑞祥吉兆があったからではない。武王は人事を尽くし、紂王は人事を尽くさなかったからである。
将帥は、天象の吉凶、地形の有利・不利、他人の意見などに左右されることなく、自らの判断によって作戦を立てなければならない。
部下に命がけで戦わせるには、えらぶってはいけない。部下に力を出させるには、地位を鼻にかけてはならない。
将帥は命を受けたなら家のことを忘れ、出陣して野営する時はその親を忘れ、軍配を振って太鼓を打つ時は自分の命を忘れるものだ。
左右の者が呉起に剣を勧めたとき、呉起は「将は専ら指揮を司るのだ。難に臨み疑わしきを決するもので、どうして自ら剣を振ることがあろうか」と言った。
また軍規違反をして敵の首級を挙げた勇者がいた。呉起は「勇士には違いないが、命令を無視した」として、これを斬り捨てた。

<strong>【将理篇】</strong>
将帥は軍法を管理する者で、えこひいきは許されない。えこひいきをしないから、万物を制して、これに命令が出来るのである。
君子は軽々しく人を捕らえない。たとえ鈎で引っ掛けられるところにいたとしても、追うことはしない。だからよく事件の真相を明らかにすることができるのだ。
裁判で投獄されるのは、小事件でも10人、中程度の事件で100人、大事件では1000人になる。しかも小事件では100人に累が及び、中事件では1000人、大事件では1万人に達する。
そうなると農民は農事ができず、商人は商売ができず、役人は役所仕事ができない。いま、良民10万人を獄にぶち込んで、対策を講じないのは、国家は危ういといえます。

<strong>【原官篇】</strong>
一.官吏は国政の執行者で、国家の運営に欠くことのできない存在である。
一.法制は士農工商の職責を規定するもので、これまた国家の運営に欠くことができない。
一.高位高禄を与えるのは、上下の身分関係を明確にするためである。
一.善を表彰し、悪を処罰して法の適用を正しくするのは、人民を善導するためである。
一.田地を分配し、賦税の軽減をはかるのは、民生の安定を図るためである。
一.手工業者を監督して武器資材の充足につとめるのは、工業担当者の職責である。
一.地域ごとに守りを固めて往来を規制するのは、流言蜚語を禁じ、内乱を防ぐためである。
一.法令に照らして問題の処理にあたるのは、臣下の職責である。
一.法令を定め、その実行状況を点検するのは、君主の権限である。
一.官吏に職分を尽くさせ、利害得失を明らかにするのは、君主の権限であるがその執行は臣下に委ねられる。一.賞罰を明らかにするのは、悪を根絶するためである。
一.法制を実行し、農業を振興するのは、政治の重要な任務である。上意下達、下意上達は、立派な政治を行なう前提条件である。
一.財政収入を掌握すれば、財用のムダを省くことができる。
一.体制を強化するには、弱点に気づかなければならない。
一.体制を安定させるには、不安定な部分に気づかなければならない。
一.統治を効率的に行なうためには、官吏を文官と武官に分けて職務分担を明確に定めなければならない。
一.天子が諸侯に供応するには、それにふさわしい礼制を規定しなければならない。
一.また、国論を統一するためには、遊説の士や間者の潜入を防がなければならない。
一.諸侯は天子の定めた礼を守り、その位を子孫に伝える場合でも天子の批准を得なければならない。 勝手に礼制を変更し、天子の指示に違反した者に対しては、礼制違反のかどをもって討伐の軍を差し向けることができる。
官吏は暇を持て余し、表彰に値するほどの善行もなく、民間には処罰に値するほどの事件もない。しかもそのうえ人民は農業に励んで商業に従事する者がいない。これこそ最高の政治といえるのではないでしょうか。
このような政治が実現されるかどうかは、ひとえに君主が臣下の意見を聞き入れるかどうかにかかっています。

<strong>【治本篇】</strong>
政治とは何ぞや。穀物がなければ腹を満たすことができないし、織物がなければ身にまとうものがない。 ゆえに腹を満たす穀物と身にまとう職物を確保すること、これが政治の根本である。
古は土地は肥沃であり、民も勤勉であった。今はそうでないのは何故であろう。男は耕作につとめず、女も機織に励まなくなった。それは古は政治がしっかりしていたからであり、 今はそうでないからである。
政治の根本は、民が私利私欲に走らないようにすることである。民が私利私欲に走らなければ、天下は一家のように治まる。
民が暇をもてあますようになれば私利私欲をはかって争いが絶えなくなる。それゆえ農業の振興に努めなければならない。
果てしなく広がる天は、その極みを知ることができません。同様に、昔から帝たる者、王たる者は多いが、その誰も規範とすることはできないのです。
過去は過ぎ去り、未来はまだ到来していない。ただ、己自身の努力を待つだけです。
いわゆる天子たる者の具備すべき条件とは、次の四つのことに尽きます。
一.すぐれた英知を現す
二.尽きない恩沢を施す
三.明らかな規範を示す
四.他国を威服させる
最も望ましいのは霊妙な力によって民を感化することである、その次は、物質の力で民を教化することである。 その次は、やたら使役にかりたてて民の生活を破壊しないことである。