前回の続きです。何のことはない小さな建物のことを大仰に書いています。雑誌だったら間違いなくボツです。お時間のある方だけ、しばしおつきあいください。
 
こちらは本屋の隣にある付属建物です。車庫兼倉庫、という感じでしょうか。
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設計(というほど大層なものではありませんが)にあたっては、クラフトマン1988年2月号にでていた、砂利会社の付属建物の図面を参考にしました。ごく普通の倉庫ですが、じゃあ、「想像で米国型の倉庫をつくれ」といわれると、畳のサイズを倍にしていけば何とかなる日本型と違って、途方に暮れてしまいますから、雑誌の旧ナンバーの建物図面は、実にありがたいです。こちらがクラフトマンの記事です。
 
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外壁にはキャンベル社のアルミ製波板を使用しました。28㎜幅の波板を1センチ幅にカッターで切り出して、サンハヤトのプリント基板用エッチング液(塩化第二鉄)でエッチングします。
もともとこれは、今はエコーモデル店主となった阿部敏幸氏が、アマチュア時代に発表した「温泉バスの駅前車庫」で紹介した技法です。ちなみに、小生が生まれたときから米国型のファンかといえば、そんなことは決してありません。小生の生まれた四国には進駐軍が集う模型屋も、陳列ケースに並ぶ美しい塗装の天賞堂FTディーゼルもなかったので、米国型なんていうのは遠い世界の話でした。小生の子供時代のアイドルは、山崎喜陽氏、なかおゆたか氏を筆頭として、坂本衛氏、阿部敏幸氏、荒崎良徳氏、河田耕一氏、中村汪介氏といった、鉄道模型趣味誌上で活躍する、日本のパイオニア達でありました。
 
さて、貴兄がダイハードなアメリカ型ファンであっても、貴兄の書棚かクローゼットには、必ず機芸出版社の「レイアウトテクニック」があるはずで、この技法はその220ページに書かれています。「オレは鉄道模型趣味を創刊号から揃えているから特集号は持っていない」という方はTMS258号をご覧下さい。
阿部氏が使った波板がどんな材質のものかわからないのですが、氏は前処理として、波板を土に埋めて35%の塩酸をかけて2~3日放置することで、土中に含まれる有機物の反応でできる汚れた班をエッチングの防食膜にする、としています。小生はそこまでしていないのですが、それにしてもはて、氏はいったいどうやって、この技法を生み出したのでしょうねえ。
ああ、それにしても、久々にTMSの旧号をながめると、なかおゆたか氏のイラストは、本当に素晴らしい。ここまで模型をつくりたくなるような、あるいはつくれそうな気にさせるイラストを描ける名人は、模型の世界に二度とあらわれないのではないかしらん。あ、すみません。話がかなりそれました。
 
 
トタン板は以下の要領で腐食させます。ただし、非常に危険な方法です。万一事故があっても小生は責任を負えません。エッチング液の説明書をよく読んで、ゴム手袋や防眼めがね等、万全の安全対策をしてください。
 
    キャンベルのアルミ製波板(CorrugatedAluminum Sheets。製品番号80128㎜×198㎜あたりが手頃。9枚入りで8ドルくらい)を用意します。カッターの刃を頻繁に折りながら、10㎜幅に切ります。
    グラスにサンハヤトのプリント基板用エッチング液を、洗面器にたっぷりの水を用意します。
    ピンセットでアルミをエッチング液に放り込みます。しばらくは何の反応も起こりません。いい加減「何だ、全然うまくいかねえじゃないか」と思った頃に、突然「ジュワー」という音を出してアルミが溶け始めます。すばやくピンセットでつまんで洗面器に張った水に放り込んで下さい。チンタラしているとあっと言う間に全部溶けてしまいます。やってみるとわかるのですが、作業を進めるうちに発熱によって反応速度がどんどん早くなります。最初はびびりますが、慣れてくると、端のほうだけもっと腐食させる、なんてことができるようになります。
    最後にもう一度、よく水洗いしてください。
    乾いてから、ティッシュペーパーで拭くと、感じのよい灰色が現れます。塗装は不要です。廃液はエッチング液の使用説明書にしたがってしっかり処理してください。
 
 
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こうして用意したトタン板は以下の要領で貼り付けます。
    ボール紙のベースにゴム系接着剤で、1㎜ずつ隣と重ねて貼ります。
    パステルチョークの茶色を粗い紙やすりで削ったものを、毛先を短くした筆で擦り込んで、錆を表現します。
    ダルコートやMR.スーパークリア艶消しなど、艶消しスプレーでオーバーコートします。パステルが半分くらい溶けますが、これがかえっていい感じになります。
 
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差し掛け屋根の部分は、かなり強めに腐食させたものです。というか、失敗して腐食させすぎちゃったものです。
 
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しかし、冷静に考えると、この建物、四方をトタンで囲ったので、小さな倉庫の割に、えらくコストのかかるものになってしまっています。ここは屋根で節約するしかないですね。という訳で屋根は、米国によくある「タールペーパー」張りにします。驚くべき低コストで作れます。
    A4コピー用紙の片面を、フロッキルのグリーミーブラックやタミヤカラー(エナメルのほう)のジャーマングレーで塗りつぶします。極太の筆を縦方向にのみ動かします。多少のムラがあっても大丈夫。
    10×40㎜、10×20㎜に切り出します。
    一番下の列を左から1㎜づつ重ねて木工ボンドで貼ります。
    最初の列に1㎜重ねて次の列を貼ります。これを繰り返して全体を貼ります。
    乾いたら、両側を0.5㎜はみ出させてカットします。
    普通の水彩絵具の白を薄く溶き、定規をガイドに極細の筆で、上から下に極細の線を引いていきます。筆があたるかあたらないかくらいのタッチで。埃やハトの糞が雨で流れた跡です。
    同じ作業を茶色の絵具でやります。
    余った紙やトタン板で小さなパッチをつくってところどころに貼ります。
    タミヤカラーのフラットホワイトで軽くドライブラシします。
 
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しかしまあ、こんなことを一生懸命書いても、実際にこれを試す人はいないですよねえ。まあ、自分のための備忘録ということでご容赦下さい。ここまで読んでくださった忍耐強い皆様に感謝します。