米国の鉄道模型ファンの間で、一番有名な蒸気機関車は何でしょう。ビッグボーイもキャブフォワードも、デイライトもクレッセンドもたじたじとなるその機関車は、ボルティモア&オハイオ鉄道のC-16サドルタンク、通称「ドックサイド」です。
実物は1912年にボールドウィンでたった4台つくられただけにもかかわらず、模型のほうは1941年のバーニー社による発売以来、HOスケールに限定し、さらに後年テンダー機に改造されたバージョンを除いても、小生が知るだけで合計8社が販売しており、その生産数量は天文学的数字にのぼると思われます。米国のモデルファンの間では、1家に1台のロコだったのでしょうね。
 
バーニーのドックサイドが人気を博したのは、安価でよく走ったこと、小半径のカーブがOKなこと、小型機ながらフリーランスではなくちゃんとプロトタイプがあること、大きなサドルが初期の大型モーターをカバーすることでスケールに収まったこと等のようです。発売時はダイキャスト製でしたが、後年プラスティックでアップグレードされます。こちらはバーニー社の1950年カタログより。子供も遊ぶ鉄道模型をタバコの箱に乗せるなんて、今だったら完全にアウトですねえ。
 
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こちらはMR1955年2月号の裏表紙の広告で、第1次G&D鉄道の、テーラー湖の横を走るドックサイドの小編成です。撮影はジョン・アレン。ご承知のとおり、彼は元々プロのカメラマンですから、こんな広告写真が撮れちゃうのですね。いやはや、素晴らしい。ただし、この広告はちょっと反則技で、よくみると、ロコにも手が加えてあったりします。これも優良誤認でアウトですねえ。具材がたっぷり乗った、インスタントラーメンのパッケージの調理例みたいです。
 
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こちらはMR1957年7月号の広告です。手持ちのロコに後から取り付けられるバルブギアのセットが、3ドル50で発売されています。

 

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バーニーがビジネスを売却した後、プラのものはライフライクが継承し、ダイキャストのものはバウザーが引き継ぎました。だから、同じ模型が何故か2社に引き継がれたことになります。
一方、イタリアのリバロッシが1948年から製造してAHM (Associated Hobby Manufacturers) が輸入販売したプラスティックのものは、その後金型がスロベニアのメハモ社に引き継がれ、販売はAHMを引き継いだIHC(International Hobby Corp)が行ないました。あと、なぜかライオネルも一時、このリバロッシ製ドックサイドを販売しています。
 
さて、ブラスモデルに目をやると、日本のサクラ(日光モデル)が製造してPFMが販売したものが、62年から66年の間に、3,250台製造されています。栄えあるカタログモデル(PFMのカタログに掲載された個体)は日本のコレクターのかたが所有しており、こちらでご覧いただけます。
 
 
サクラのものはボディがダイキャストですが、純然たるブラスモデルとしては、1973年に、GEMが韓国サムホンサに作らせたものがあります。生産数量は何と1度に1,000台。Brasstrains.comさんの写真を無断借用しますが、お仲間とともに、これまでたくさんのお金を貢いできたので、許して下さいね。

 

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近年では2013年にPSCがブラスモデルの発売を予告していましたが、これはいくら検索しても現物が出てこないので、実際には発売されていないように思います。HOドックサイドのトリを飾るべき決定版になったかもしれないので、ちょっと残念です。もちろん出ていても小生は買えないお値段だったでしょうが。
 
 
以上がB&Oドックサイドの模型史です。かなり労力を使ってヘトヘトなのですが、こんなことを知りたがる人が、果たしているのかしらん。

 

さて、小生、1990年に米国勤務になって、噂に聞くトイザらス(日本にはまだなかった)に行ったのですが、がっかりしたことに、お店には鉄道模型のコーナーなんて全然なくて、バックマンやタイコの、玩具みたいなトレインセットが数種類置いてあるたけでした。そもそも今のアメリカの子供は、普通に暮らしていると日本やヨーロッパのように汽車だの電車だのには乗らないので、鉄道なんて好きにならないのです。プラレールやメルクリンもありませんから。

 

そのトイザらスで購入したのが、ライフライクの「トイザらス・トレインセット」です。サンタフェロゴのドックサイド、貨車2台(うち1台はトイザらス塗装)、サンタフェロゴのカブースに、円形エンドレスの線路、パワーパックがついて、わずか22ドルでした。写真はネットでお借りしたのですが、小生が買ったものよりも線路が高級なバージョンになっています。

 

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で、このセットのロコが、前述のバーニーの流れを汲むライフライクのドックサイドです。模型に貴賤なし、小生、入手した安い模型は1台残らず丁寧に手を加えてやろうと思っているのですが、この機関車に関してはダメでした。ラビットスタートの高速ランナーだし、何よりロッドが薄い金属板を打ち抜いただけのもので、クロスヘッドガイドすらついていません。さすがに改良する気力が湧きませんでした。(画像はネットからお借りしました)

 

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で、その後1994年に入手したのが、リバロッシの流れをくむ、IHC社のものです。小生、普段は新品なんて買わないのですが、この模型はバルブギアがちゃんと表現されていたので、大枚29.99ドルをはたいて購入しました。その模型がこちらです。(画像はネットからお借りしました)。

 

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さて、この模型の改造ですが、もともとのロコがあっさりしたディーティルなのでさほど手はかかりません。モールドで表現されていた砂撒き管やコンプレッサーを削り落として、真鍮線やロストパーツを取り付けます。おごったパーツは、ベルと単式のコンプレッサー、正面のB&Oエンブレムくらいです。たしか1晩か2晩の工作で、塗装以外の工程は終了したと思います。

 

塗装は当社標準のフロッキルのエンジンブラックとリーファーホワイトの3:1ミックスですが、ディカールを貼ってから、この車体色をもう一度さっと吹くことで、ディカールを車体になじませます。で、失敗しました。軽くひと拭きするつもりが吹きすぎて、ほとんど文字がみえなくなってしまっています。この作業、「ああ、失敗した」と思っても、絶対にそれ以上吹いてはだめなのですが、手が止まりませんでした。
 
で、いつものお立ち台で撮影したのですが、ご承知のとおり、このロコはボルティモアやフィラデルフィアの港湾で活躍したロコなので、西部風のストラクチャーはとてもへんです。レンガ造りの倉庫街、みたいなとこじゃないとダメですね。あと、ウエザリングをしていない貨車が、風景から浮いてしまってます。ウエザリングの効果検証のための写真である、という苦しい言い訳をしておきましょう。

 

ちなみにこの機関車、お尻を盛大に左右に振って走ります。リトル・ジョーならぬ、「モンロー・ウォーカー」の愛称を授与いたしました。

 

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いやあ、それにしても、今回の記事は前半の大袈裟な模型解説の割りには、最後に紹介する自分の模型がしょぼいです。こういうのを竜頭蛇尾というのでしょうねえ。失礼いたしました。