私のマエストロ5人目は、ソムリエのタイトルもなにも持たない、友人ロベルト・ビジオ。なんと、知り合ってから20年くらいになりますか、つまり、私がイタリアに住む前にミラノで知り合った友人です。写真はロベルトの住んでいるピエモンテ州カルペネート

日本で私がまだ編集者をしていたときです。当時私は、フィレンツェに魅せられていました(なぜそうなったのか、不思議な偶然話はまたの機会に)。とにかく、まとまった休みが取れる年2回のお休み、GWと年末には、かならずフィレンツェに行くようになりました。毎回、フィレンツェにミラノなど1都市をプラスして旅行していたので、結局イタリアに住む前に、11回もフィレンツェを訪れていたことになります。ところで、当時、日本の雑誌「Figaro(フィガロ)」のイタリア特集はとても素晴らしかった! 同業ながら、脱帽。いまも当時のスタイルなのかどうかわかりませんが、ミラノやフィレンツェの地図に、お店がみっちりと落とし込まれていて、それはそれは圧巻でした。この号が出るとかならず雑誌を買って、穴が開くまで読んでは、よさ気なワインバーをチェック、次の旅行で行こう! とすべてリストにして、しらみつぶしに片っ端からピックアップしたお店をハシゴしていました。いつものように、フィレンツェからミラノに移動して、ミラノ特集でチェックした「よさ気なワインバー」に向かうことに。お目当てのお店は、若者が夜飲みに集まるナヴィリオ地区にある、「Le Terre Di Marengo(レ・テッレ・ディ・マレンゴ)」。残念ながらいまはありませんが、当時の懐かしい写真発見!

P.za Ventiquattro Maggio(ピアッツァ・ヴェンティ・クワットロ・マッジョ)のすぐ近くにあるエノテカです。飾り気のない狭い入り口は、外から見ると変哲もない普通のバールのようですが、なかに入ると、狭い店内にグラスを持った立ち飲み客で大賑わい。若者の街なのに、ここの年齢層はかなり高く、ワインもかなりの本数がグラス用に開けられ、カウンターの大部分を陣取っています。ここのオーナーが私の師匠・ロベルトでした。

彼はピエモンテ州、アレッサンドリア県カルペネート出身。かなり後で知ったのですが、なんと、『薔薇の名前』などで有名な、Umberto Eco(ウンベルト・エーコ)の親戚だとか。さて、彼はドイツ人の料理上手なCharlotte(シャルロッテ)とともに、このバール兼エノテカを経営していました。地元、アレッサンドリアの珍しいワインも多く、貴重なヴィンテージ物もグラス用に開けたりと、かなりマニアックなお店。すっかり気に入って、ミラノに来るときは、このエノテカに立ち寄るようになりました。そんなあるとき、私のミラノ滞在中、ふたりがカルペネートに行くというので、いっしょにピエモンテに行って、彼らの家族とゴハンを食べないか、と食事に招待されたのでした。それからです、友達付き合いがはじまったのは。縁とは本当に不思議なものですね。

ロベルトは羨ましいくらい記憶力がよく、生き字引きのようなヒトです。ワイン名はもとより、ヴィンテージや読んだ記事、なにからなにまで覚えています。とくに、ピエモンテ・ワインに関しては、知らないことはないくらい。地域の変化、地元の食べ物、名前の由来や歴史、その知識と言ったら・・・どんどん出てきます。

私がミラノに住んでからは、1年になん度かピエモンテに遊びに行くようになりました。春に遊びに行ったときのことです。ロベルトと弟のブドウ畑の近くを散歩していると、「これは、luppolo(ルッポロ)の芽で揚げ物にするとおいしい」「これは、stringolo(ストリンゴロ)と言って、フリッタータにするとおいしい」・・・ルッポロとはホップのこと。野生のホップの芽が食べられるとは知りませんでした。まだまだ寒い春に、犬を連れて畦道を歩きながら、食べられる植物をどんどん解説して行くのです。食い意地の張っている私が、そのままミラノに帰るわけがありません。さっそくカゴを持ち出して、メモをとりながら、片っ端から野草を採っていきました。結果、山盛りです。ミラノに戻ってから、友人たちにも分けましたが、1週間はずっとピエモンテの春の野草を食べ続けることができました。すごいな、ピエモンテ。

生まれてはじめてお花のフライを食べたのもロベルトのお陰です。ピエモンテ州では藤の花もフライにして食べますが、私の大好物となったのは、「sambuco(サンブーコ)のフライ」。ニワトコは可憐な白い小さな花が無数についていて、花が咲くとあたりに甘い香りが漂います。よく白ワインの香りの表現にも使われますが、これを、洗ってからりと揚げるのです。ほのかな甘みと、やわらかな香り。最高!

藤の花(上)とニワトコの花(下)

斜め上はセージの大きい葉。こちらも揚げてアペに。

というわけで、ロベルトと話をすると、毎度、なにかしら新しいことを学ぶことができるのです。「学ぶ」と言うことは素晴らしいですよね。新しいびっくりがあるわけですから。初めて会ってからずっと、この人は「すごいヒトだな~」と尊敬し続けています。これだけものすごい知識があるのなら、先生になって教えればいいのに、といつも思うのですが、そんなことにはまったく無頓着。タイトルや地位にぜんぜん興味がないようで、自由自適に暮らしています。そこもまた、ロベルトらしいのですが、ちょっと勿体ないような気もします。

ここまで書いて、改めて思うのが、私はヒトに恵まれて本当に「ラッキー」だと言うことです。5人の師匠たち、ありがとうございます! Salute!(乾杯!)赤ワイン白ワインキラキラ

 

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