由美子は、人工肛門の生活にも慣れ、平穏だが退屈な日々を過ごしていた。
「あ~、ほんと、私の人生っていけてないよなあ。派遣社員で低月給、おまけに課長が死んでから、みんなの目線も冷たく感じるしなあ。転職して、正社員になろうかなあ・・。」
由美子は、最寄りのハローワークを訪れた。
『はい、15番の番号札をお持ちのかた、こちらへどうぞ』
60代前半の白髪交じりの男性が担当者のようだ。
「よろしくお願いします。」
『ええと、あなたの名字は、オミツさんでいいのかな?』
「いえ、オマンと読むんです。おまん ゆみこ です。」
『お、お、おまん!ウッ、ゴホゴホ!ゴホゴホ!』
「だ、大丈夫ですか?」
『え、ええ、少しばかり動揺しただけですよ、ふふふふ・・・。えーと、あなたは、正社員を希望してるのかな?』
「はい、そうです」
『いままでの経験は?』
「派遣で、事務仕事をしてきました。PCスキルはそれなりにあります。」
『いや、そんな話はどうでもいい。あっちの経験だよ』
「あっち?あっちというのは?」
『初体験はいつ?』
「そ、その話は、何の関係があるんですか?」
『君は、職を探しに来たんじゃないのか?』
「い、いや、関係ないですよね」
『あるんだよ、それが』
「答えると、私に何かメリットはあるんですか?」
『ああ、ある。返答次第で、とても素敵な職場を紹介してあげようじゃないか』
「ほ、ほんとですか」
『うん、私を信じなさい。ハローワークを裏で牛耳っているのは、この私なんだ。で、いつ?』
「え、ええと・・・、17歳です。高校3年の夏休みのときに。」
『どこで?』
「彼氏の家です。ちょうど、彼の両親が旅行中でいないときで・・・。」
『どうだった?初体験の感想は?』
「うーん・・・、正直、ぜんぜん良くなかったです。」
『彼氏が、下手だったのか?』
「下手というか、相手も初体験だったから。お互い、手探り状態で・・」
『最後までは、できたのかい?』
「あー、それなんですが・・・、ちょっとマズいことになっちゃって・・」
『うん?どういうことかね?』
「これ、言わないとだめですか?」
『当たり前じゃないか!正直に言わないと、君にはマグロ漁船の仕事しか紹介してあげないぞ』
「ああ、私は、兄の裏ビデオで事前に学習してたんですけど、彼氏は女の子のアレを見るのも初めてだったみたいで・・」
『うん、それで?』
「その、なんというか・・・・べ、別の穴のほうに、ぶち込まれてしまって・・」
『な、なんと・・・!』
「わたしは、≪ねえ、違うって、そこじゃない!ねえ、違うってば!≫って、必死に伝えたんですけど、彼氏はもう、無我夢中になっちゃってて、ぜんぜん止めてくれなくて・・」
『さ、先に、そっちを経験してしまったというのか・・・!』
「あー、はい・・・、それで、まあ、それ以来ずっと痔に悩まされてるというか・・」
『そうだったのか・・・、すまない、そんなことも知らずに、ずけずけと聞いてしまったなあ。話しづらかっただろうに・・・』
「いや、もう、昔のことなんで、何とも思ってないです。若気の至りというか、まあ、仕方ないですよ・・ははは」
『よし、君には、素晴らしい仕事を紹介してあげよう。ちょっと、待ってて。』
そう言うと、60代の担当者は、席を離れ、奥の部屋に入っていった。
5分後・・・
『待たせたね、君に、この求人票を渡そう。』
担当者は、私に1枚の求人票を差し出した。
「こ、この仕事は・・!」
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運命のイタズラとしか思えない出来事が訪れることを、このときの由美子は、まだ知る由もなかった・・・。
(つづく)