私は、あの全身包茎セミ人間のために、10万円を稼がないといけなくなった。

今、あの頃の自分を思い返しても不思議に思う。

どうして、彼のために、あんなに体を張ってしまったんだろう・・。


セミ人間には言わなかったけど、私にとって、10万円を稼ぐことなんてたやすいことなんだ。

だって、バカな大人は山ほどいる。

私の若さに、いくらでもお金を差し出すオヤジたちなんて、そこらじゅうにね。


時間は夜の7時を回った。

お母さんには、今夜は友達の家に泊まるって嘘をついてきた。

わたしは、いつもの守○市駅の近くでアレを始めた。

「マッチは、マッチはいりませんか~?
マッチはいりませんか~?」

何事かと、道行く人たちが私を振り返る。

気にせずに私は続けた。

「マッチはいりませんか~?」

20分ぐらい経った頃、40代半ばのサラリーマンが私の前で立ち止まった。

『お、お、お嬢ちゃん、ま、ま、マッチを・・はあ、はあ、まままま、マッチをください・・ハア、ハア・・』

「はい、ありがとうございます。一箱120円です」

『お、お、お嬢ちゃん・・君、こんなとこでマッチ売ってても、お金にならんだろう・・?ど、どうだい、ぼ、僕と取引しないか・・ハア、ハア』

「取引ですか?」

『あ、ああ・・来ればわかる、来ればわかるさ・・ハア、ハア・・』

こうして、私はそのサラリーマンについていった。

10分後・・・

『ウハハハハーっ、いいよ・・ううっああああーっ!た、たまらん・・!』

『んんんんーっ、ああああーっ、いいっ!き、君は、なんというテクニシャンなんだ!あ、あ、ううっ!う・・う・・、グハーッ!』

『そ、そこ・・!そこでごわすーっ!ま、まさしくソコどすーっ!そ、そ、そこどすぇ~っ・・あうう、あっ、あっ、そ、それそれそれーっイひひひひーっ!』

「こんな感じですか?」

『も、も、ももももモンテスキューっ!!ふ、ふ、ふ、ふふふふ震えるるるるーっ!!ビクビクがと、ととと、止まりまっしぇーん!!あわわわわわわわわわわわわ!!ガタブルブルブルブル・・・ひひひひーっ!!』

「こ、このへんなんかは・・?」

『あみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃーっ!!イイイイイクイクイクイクイクフーッ!!し、し、し、死んじゃいまチューっ!ぼ、ぼくちん、し、し、死んじゃいまチュー!マチュピチュピチュピチュ~ピッかチューっ!!』

「こ、これなんかは・・?」

『あにゃにゃにゃにゃあにゃにゃにゃにゃーっ!!にゃオーんわオーんひひひひーっん!おうまちゃんパッかパッかパッカパッカカピバラピピピピピピヨーン!!た、たまらんとです~!!せごどんせごどんーっいっちまうとですよーっ!!せごどんせごどんーっ!!』

「あ、熱くないんですか?ロウソクをこんなに垂らして・・」

『フーッふふふふフフーっフハハハハ~っ!こ、こ、こ、これが・・!これこそが、へへへへ、ヘブンなんだよぉおぉお~!!俺たちサラリーマンの、サラリーマンの、ヘブンなんだよぉおぉおーっ!!』

「あ、あの、もう1時間経ちますけど。延長しますか?ロウソクも、溶けて無くなって来ましたけど。」

『ふ、ふふふふ・・、愚問だよ・・。ここで延長しなかったら、僕は一生後悔するだろうねえ・・・』

「わかりました。次はどこに垂らしたらいいですか?もう、ほぼ全身ロウで真っ赤ですけど・・」

『よ、よ、よく見てごらんよ・・ハア、ハア
 まだ、まだ垂れてないとこがあるだろう、ここだよ、ここ・・!』

サラリーマンは、驚きべきところを指さした。

『が、が、眼球が・・は、はふ、はふ・・、に、二個も・・ハア・・ハア、の、残ってるじゃないか・・!』

「し、失明しちゃいますよ」

『ば、ば、ばばばばバカたれがーっ!失明が怖くて、この社会を渡り歩けるかってんだよこの野郎ーっ!ハアっ、ハアっ、いける、いけるはずだ、い、いまの僕なら・・の、乗り越えられるはずだーっ!!さあ、さあこい!かかってこいよーっ!バッチこーっい!!』

「い、いきますよ」

ダボダボダボ・・・!

『は、は、はうあ・・はう・・はう・・め、め、目が・・、お、お目めが・・シューシューいってるー!!涙が蒸気に変わっていくよーっ!!お母ちゃーんお母ちゃーんあなたにもらった大事なお目めがーっ!たった今、宇宙に向けて旅立とうとしておりましゅーっ!!』

ダボダボダボダボダボダボ・・

『ま、ま、ままま・・真っ赤っかーっ!!し、視界があぁ~っ、真っ赤っかじゃーっ!!あ、明日は、職場に税務調査官が来て、たくさんの帳簿を提示しないといけないというのにーっ!ひーっイひひひひーっ!!ぜ、ぜ、税務調査官に、僕ちんお目めが見えないでちゅからホントにちゅいまちぇ~んって言ったら見逃ちてくれまちゅかにぇ~っ!!ぜ、ぜ、全部のもにょが、じぇ、じぇんしぇかいが・・真っ赤っかでちゅーってしぇちゅみぇいしちゃりゃ、にゃんちょきゃなりまちゅきゃにぇーっウヒャヒャピャヒャヒャーっ!!』

「もう、いいんじゃないですか?」

『み、み、耳だ・・・ハア、ハア、み、耳の穴に入れてケロ・・ふふふ、ふふふふ・・・、もう、もう、何も怖くないさ・・、ぼ、僕の鼓膜が勝つか、君のロウソクが勝つか・・・はあ、はあ・・ふふふふ・・や、やってみようじゃないか・・ひひ、ひひひひひーっ!』

「あの、もう私時間ないんで帰りたいんですけど」

『な、なに言うとんじゃーっ!!ぼてくりまわしたろかーっ!!』

サラリーマンはそう叫ぶと、私の手からロウソクを奪い取った。

『み、見ろ、よく見てろ・・!!』

ボタボタボタボタ・・!!

『ウギャーッ!!ああああーっアッツーっ!!セルフあっつーっ!!み、耳がーっ!!オラのお耳ちゃんがーっこ、こ、鼓膜がーっぷちゅぷちゅプチプチプチーって音立てて破れちゃっちゃよーん!!ミャヒャヒャヒャヒャうっぱー!!聞こえねーっすよーっ!もう、人生のパイセンたちのアドバイスが聞こえねーっすよーっ!鼓膜の代わりにミミガー突っ込むしかねえっちゅうのよ~ウニョニョニョーっ!てんのうへいきゃバンジャーイ!!』

「すみません、お金財布からもらってきますね」

『あちたも見てね~ビャイビャ~い!!にゃははははひはひはひはひはーっ!!』


こうして私は、サラリーマンから10万円を稼ぐことに成功した。


さあ、早くセミ人間に渡してあげようっと。

私は彼のもとに急いだ。


(つづく)