「可山優三(かやまゆうぞう)」、

 

 これは、俳優で歌手の加山雄三さんをもじった造語です。

 

 成績の悪い大学生をからかう言葉です。

 

 「可」が山のようにあって「優」が三つしかないという意味です。

 

 大学にもよりますが、大学の成績は良い順に「優」、「良」、「可」、そして「不可」で示されます。

 

 「可」までだと単位が取れて、「不可」だと落第です。

 

 ちなみに、前期と後期の年2回の試験の平均が100点満点で60点以上でないと単位が取れません。

 

 古い造語ですから「可山優三」という言葉を知っているのは爺さんと呼ばれる年齢の人たちでしょうね。

 

 書類を探していたら家探しみたいになっちゃって、探し物も見つかったのだけど、要らぬモノも出てきちゃったのですわ。

 

 それは何かといえば、大学の成績証明書です。

 

 たぶん、転職の時に次の会社に提出したものの控えだと思います。

 

 大学時代の私の成績は悪くてね、だから、あまり見たくない書類です。

 

 けれども、せっかく出てきたのだから再確認してみました。

 

 

 すると、

 

 「優」が14個、「良」が30個、そして「可」が10個。

 

「ん? 『優』が14個か、真ん中から下の成績ではあるけど悪くはないやん、記憶違いか?」

 

 と、一瞬は喜んじゃったのですが、記憶違いなんかじゃありません。

 

 成績証明書は卒業時の成績を記したものであって、就活の時に評価対象とされるのは三回生終了時点の成績です。

 

 40年以上前の昔はまだノンビリとした世の中だったので就活が始まるのは、文系の場合、四回生の夏休みの前でした。

 

 だから、三回生終了時点の成績までしか評価の対象になりません。

 

 で、その三回生終了時の成績ですが、たしか優が8個だったと思います。

 

 だから、四回生のときに優を6個取ったのでしょうね。

 

 つまり、私の成績はやはり悪かったというわけです。

 

 「優」が一桁台だと大手銀行とか航空会社とか大手商社からは門前払いされます。

 

 だから、訪問しませんでした。

 

 けれども、大手銀行の先輩が電話をかけてきてくれて「一度話を聞いてみないか」と言ってくれたので、

 

 その先輩と喫茶店でお会いしたのですが、

 

 しばらく話をしたのち、こんなやり取りになっちゃいました。

 

「ほんで、君、優はいくつあるのん?」

 

「8個です」

 

「えっ」

 

 その先輩は「えっ」と小声を発すると、急にWindows10パソコンのように短くフリーズしてしまい、

 

 そして、

 

「あ、悪いな、俺、急用を思い出したわ、勘定しとくから君はゆっくりとしてって、ほんならな」

 

 と一方的に告げると、どこかに去ってしまいました。笑

 

 つまり、優が8個とは、そういう成績なのですよね。

 

 そんなことだから、私は「入れてくれる会社」を訪問し、なんとか拾ってもらいました。

 

 どうして成績が悪かったかと言えば、予想に反して勉強させる大学だったからです。

 

 私の頭が悪かっただけかもしれませんが。笑

 

 それはともかく、

 

 当時は週刊誌やワイドショーで「大学レジャーランド説」というのが取り沙汰されていました。

 

 今だったら「大学ディズニーランド説」でしょうね。

 

 当時はまだ東京ディズニーランドがなかったのでね。

 

 要するに、「近頃の大学生はてんで勉強などせず、まるでレジャーランドに遊びに行っているようだ」と特に文科系の大学生が問題視されていたのですね。

 

 これを真に受けた大人たちは大いに嘆いたわけですが、私はこう思いました。

 

「そうか、大学ってレジャーランドなのか。つまり今の受験勉強さえ乗り切れば四年間も遊べるわけだな、しめしめ」。笑

 

 そのようなヨコシマなことを思いながら大学に無事入学したのですが、前期試験でさっそく誤算が生じてしまいます。

 

 私は経済学部だったのですが、ユニークな大学で、一回生の時から専門課程の講義を受けさせる大学でした。

 

 ともかく、

 

 その大学に入学して初めての前期試験を受け、その採点済み答案用紙が戻ってくると、

 

 どひゃー! でした。

 

「なんやねん、これ、42点、35点、51点、単位なんか1個も取れへんやん。大学ってレジャーランドなのやろ、違うのか?」

 

 極め付きはフランス語でした。

 

 なんと23点!笑

 

 100点満点で23点ですよ。

 

 その採点済み答案用紙を教授から受け取った私は、びっくりして思わず教授にアホなことを聞いてしまいました。

 

「教授、これ、23点って、つまり後期試験で97点以上でないと単位が取れないということですか?」

 

 すると、その教授は「なんやこいつ?」みたいな表情で私を見ながら、

 

「当然でしょ、だから絶望ですね、アッハッハッハ」

 

 大笑いされてしまいました。笑

 

 その後の私がどうしたかと言えば、そりゃあ、仕方がないからガリ勉しましたよ。

 

 要するに「大学レジャーランド説」というのは、こと私の出身大学について言えばガセネタだったのですよね。

 

 結局、四年間、しっかりと勉強させられましたよ。

 

 妙に厳しい大学でね、簡単には卒業させてくれないのですよね。

 

 試験がガチンコなのですよ。

 

 「君、成績が悪いからレポートを出しなさい、そうすれば単位をあげるから」みたいな御親切なことは一切言ってくれません。

 

 交渉なんか一切できず、いきなり落とされるのみです。

 

 私の出身大学には「卒業者発表」というイベントが四回生時の3月にありましてね。

 

 A4の紙が3枚ほど教務課の掲示板に貼りだされるのですよ。

 

 学籍番号の右隣に丸印があれば晴れて「卒業」、

 

 丸印が無ければドツボの「留年」。

 

 ちなみに「留年」は四回生終了時のみです。

 

 三回生までは留年しません。

 

 冷酷な大学でね、私の経済学部は一学年が250人なのですが、毎年80人から90人の学生が留年させられるのですよ。

 

 なんと三人に一人が留年です。

 

 内定が決まっていても留年です。

 

 留年すると内定取消です。

 

 だから、掲示板の前に集合した経済学部の四回生の表情は不安そのものです。

 

 もうね、合格発表の雰囲気とまるで同じなのですよね。

 

 そして、いざ発表されると、留年が決まった学生は悲惨そのものでしたよ。

 

 だって、内定取消ですもの。

 

 就職がパーですもの。笑

 

 「くそっ! あの教授やな、しばいたる!」

 

 と怒り狂う学生、

 

「あーん、内定取消やん、どうしよー!」

 

 と泣き出す学生。

 

 ただ茫然自失で立ち尽くす学生。

 

 もう暗いこと暗いこと!笑

 

 私の学籍番号の右隣にはちゃんと丸印がありました。

 

 だから、卒業OKです。

 

 けれども、その場の雰囲気が「そんなん」ですから、喜びたくても喜べません。

 

 仕方がないので、私はその場を足早に後にし、

 

 校門もさっさと歩き抜け、

 

 なおもとっとと歩いて、「ワンワン」というカレーが名物の喫茶店に入ると、

 

 周りに留年が決定した学生がいないことを確かめ、

 

 そして、運ばれてきたコーヒーを一口すすってから、

 

「あー、良かったー、卒業やー! これで就職できるわ、本当に良かったー!」

 

 と一人喜びましたね。笑

 

 まったく、どこかの評論家が「大学レジャーランド説」なんか唱えるものだから、大勘違いしちゃいましたよ。

 

 他の大学のことは知らないけど、ウチの大学にはホンマに勉強させられましたね。

 

 けれども、学生の本分は勉強ですから、それで当然なのですけどね。

 

 試験の答案用紙に何も書けない夢って、多くの人が見ますよね。

 

 けれども、夢の場面は、普通、高校入試とか大学入試とかですよね。

 

 でも、私の夢は、四回生の後期試験、つまりは実質的な卒業試験が夢の場面なのですよね。

 

 「あーん、なんにも書けないよー、内定がパーやん、どうしよー!」ってね。笑

 

 今はもう見ませんが、5年前くらいまで見ましたね。

 

 それでも、年に80人とか90人とか留年させて、しっかりと勉強させてくれた大学には感謝しております。

 

 建前ではね。笑

 

 やっぱり大学生なら勉強しなくちゃ!

 

 でも、試験勉強なんか二度としたくない。

 

 私は勉強なんか大嫌いや!笑