「ミカちゃん」
「なに?」
「ちょっとだけいい?」
「いいわよ、入って」
一歩踏み出すとユキは崩れるように泣きだした。でも、それだってわかっていた。――まったく子供の頃からワンパターンなのよ。この人はなにかしでかすと、こうやってしくしく泣くの。こっちが泣きたい気分でも先に泣いちゃうんだから。
「で、なんであんなことになったの?」
「わからないわ」
「わからない? わからないなんて、こっちがわからないわよ。言うまでもないけど、これはお姉ちゃんがしたことよ。みんな、藤田さんだって、お父さんやお母さんだって、どうしてあんなことしたか知りたいの。ま、私はどうだっていいけど、やっぱり訊かなきゃならないわ」
「だって、わからないんだもの」
ミカは天井を見あげた。すすり泣く声以外はまったくの無音というくらい静かだ。――なんだか私たちだけ違う世界に来ちゃったみたい。だけど、こんな状態のこの人と二人きりの世界なんて嫌だな。
「ね、お姉ちゃんは藤田さんと結婚しようと思ってたんじゃないの? だって、そういう流れだったでしょ? 違う?」
「わからないのよ」
大声を出したい気分になったものの、すんでのところでミカは溜息に換えた。ただ、唇は歪みまくってる。
「わかったわ、お姉ちゃん。でも、これからなにか訊いたら、わからないってこたえるのは無しにして。なんでもいいから他の言葉にするの。いい? 言いたくなったら飲みこむのよ。じゃ、訊くわよ。――あのね、藤田さんはお姉ちゃんのことを愛してくれてると思うの。今日そう言ってたし、聴かなくたってわかるくらいだったんだから。それに、けっこう前に私たち雨の中を一緒に歩いたことあったでしょ? そんときだって思ったのよ。この人って本当にお姉ちゃんのことが好きなんだなって。ここまではいい?」
「うん」
「で、問題はお姉ちゃんよ。結婚するしないは別にしても、あの人のこと好きになれてたんじゃないの?」
口をひらきかけたもののユキは首を傾げた。――そう、たまには考えなさいよ。これはあなたのことなのよ。
「たぶん、そう」
「たぶん、そう? なによ、それ。――でも、まあいいわ。つまり、お姉ちゃんも藤田さんのことが好きなんでしょ? だったらそれでいいじゃない」
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