これからのこと――ユキの存念を「可及的速やかに(と父親は言った)」聴いて、それを「建設的な方向に」持っていくことをとりあえずの約束にして藤田吉之助を帰すと、親子は遅い夕食をとった。本当なら午後から買い物に行ってたはずだった。ひと月ばかり悩んでたコートをもう一度見て、どうしても我慢できなかったら(その可能性が高かった)買ってやろう。そして、明日着ていこうと考えていたのをミカは思い出していた。それもあの人のせいで出来なかった。

 

 

 両親は黙りこくっている。混乱してるんだろうな。楽しみにしてた娘の結婚が危機に瀕してるんだもの。じっと見てると父親の頭には白髪が目立ち、母親の顔には皺が深く刻まれている。ああ、この人たちも年をとったんだな。そう思わざるをえない。――ほんと嫌になる。なんでこんなときに気づいちゃったんだろう。

 

 

 部屋へ戻ると十一時近くなっていた。

 

 

 馬鹿な一日。ほんと馬鹿げた休日だった。一通りスキンケアを施し、ミカはイランイランとベルガモットを焚いた。それからなにか考えようとした。笑えること、ごく些細なくだらないこと。だけど、頭に浮かぶのは藤田吉之助の悲しげな表情や、姉以外の家族が味わった居たたまれない雰囲気、そんなものだった。

 

 

 窓をあけ、ミカは外を眺めた。冬の夜は静かで、雪でも降ってそうに思える。ただ、当然のように雪なんか降っていない。――昼間あんなに晴れてたものね。それに、まだ十一月だもの。ミカはベッドにもたれかかった。眠らなければと思うのだけど、眠れないのはわかっていた。そうしてると涙が出てきた。馬鹿な一日の、馬鹿な涙。私には悲しいことなんてひとつもないのに。

 

 

 ドアが弱く叩かれた。

 

 

 急いで頬を拭き、ミカは姿勢を正した。戸口にはユキが立っている。だけど、驚かなかった。ノックされたとき、いや、それ以前からこうなるものとわかっていたのだ。

 

 

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《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》

 

 

雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。