「で、もう一人いたでしょ?」
「ああ、お姉さんね」
声は変化なしだった。――できれば顔を見ながら話すべきだったな。でも、しょうがない。これだけは早いうちに知りたかったんだもの。
「いい人そうじゃない。話を聴いてたぶんにはもうちょっとこう、つかみどころがない人かと思ってたけど、意外にしっかりしてるんじゃないかな」
「ふうん、そう思ったんだ。で、見た感じはどうだった?」
「ああ、きれいな人だったね。でも、」
「でも?」
「緊張してたからあまり憶えてないんだよ。こう言っちゃなんだけど俺たちのことにはあまり関係が無いっていうかさ。――いや、こういう言い方は良くないか。だけど、そういうもんだろ?」
「あまり興味がなかったってこと?」
「いや、まあ、簡単にいえばそうなるのかな?」
「でも、あなたの義理の姉になる人なのよ。あの人にとって、あなたは義理の弟になるってことなんだからね」
そう言いながら、あれ? これっていつか聞いたフレーズに似てるなぁ、と思った。いつ聞いたんだっけ?
「ごめん。気を悪くしたなら謝るけど、俺はミカとのことで頭がいっぱいだったし、そっちの両親に気に入ってもらえるかとか考えてたからさ、お姉さんのことまで頭が回らなかったんだよ」
「ふうん」
素っ気なさそうに言ったものの頬はだらしなくゆるんでいった。――やっぱり電話にしといてよかったんだ。
「だけど、ミカはほんとにお姉さんのことが好きなんだな」
「は?」
「そこまでとは思わなかったよ」
いや、ちょっと待って。なんでそうなるのよ。っていうか、こういうときにそんなこと言わないでくれる?
「ミカにとってお姉さんが大切な存在だってのはわかってるつもりだったんだけどさ。ま、次に会うときはじっくり観察してみるから許してくれよ」
やはり頬はゆるんでいった。――そんな必要なんてないわ。あなたは私だけ見てればいいの。だけど、実際にこの人は私だけを見ていてくれた。姉の美しさもこの人の前ではなんの効力も発揮しなかった。私は勝ったんだ! これまでいろんなことがあったけど、とにかく一番大切なときに私は勝てた! それから、ふと、勝つ? と思った。どんな部分で私は勝ったのだろう? いや、それ以前にどの部分で負けていたのだろう? しかし、様々な嬉しさが複合的に満たしていたので、そのことについて深くは考えなかった。彼の声は優しく頭を撫でられてるような充足感をあたえつづけていたのだ。
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