「ただ、そういうことがあったってんなら、その通りなんだろ。話としちゃ信じられる部分は微塵もないが、俺はお前を信用してる。なにしろ大親友だもんな」

 

 

「ありがとう」

 

 

「はっ! ありがたがられることはない。不満に思ってることもあるんだ。なんで俺に言わない? どうして教えてくれなかった?」

 

 

「お前に言ったらなにかしてくれたのか?」

 

 

「まさか。なにができるってんだ? 俺はカミラちゃんじゃないんだぜ」

 

 

 バーテンダーが近づき、顔を向けてきた。僕たちはまた適当に頼んだ。

 

 

「悪かったよ。それについては謝る。でも、さすがに恥ずかしいだろ? 鍋や炊飯器まで盗まれたなんて言いたくなかったんだよ」

 

 

「いや、それに関しちゃできることがあったんだ。この前地元の友達が結婚したんだよ。そいでな、二次会のビンゴで炊飯器が当たった。まあ、どうして炊飯器なんだよとは思ったぜ。でも、とにかくそれが当たったんだ。ただ、俺はすこし前に新しいの買っちまったんだよ。前のが壊れたんだ」

 

 

「ってことは、」

 

 

「ああ、つまり一個余計にあるってことだ」

 

 

「それ、まだあるのか?」

 

 

「ん、あるよ。箱に入ったままでな」

 

 

「じゃあ、くれ。鍋で炊こうと思ったんだけど面倒なんだよ。炊きたてのご飯を食いたいって思ってたとこなんだ」

 

 

 首を振りつつ小林は葉巻を燻らせた。周囲には青白いけむりが漂ってる。

 

 

「――で、カミラちゃんと結婚するってことか?」

 

 

「まあ、そうなるな。どうもそうなるようになってたみたいだ」

 

 

「はっ! 他人事みたいに言うなよ。これはお前にあったことだろ? それに、これからずっとつづいていくことでもある。違うか?」

 

 

「ま、そうだけどな」

 

 

 身体ごと動かして僕たちは向きあった。小林はまだ真剣そうな顔つきをしている。

 

 

「恥ずかしがることはない。けっきょくお前はカミラちゃんのことが好きなんだろ? いつのまにか好きになってたんだ」

 

 

「そう思うか?」

 

 

「違うってのか?」

 

 

「いや、たぶんきっとそうなんだろう」

 

 

 顔は急激にゆるみだした。と思う間もなく声をあげて笑った。カウンターの三人は訝しそうに振り返ってる。バーテンダーもちらと見た。それから、うつむいてグラスを磨きだした。

 

 

「じゃ、それでいいんじゃないか? きっかけがなんであれ、お前がいいと思ってるならそれで充分だろ? 俺が信じられるかなんてのはどうでもいいことだ。――なあ、お前にはいろんなことがあった。信じられないようないろんなことがだ。それで混乱してたんだよな? それをカミラちゃんが解してくれたってわけだ。そういうときに男と女ってのは結びついちゃうもんだ。そして、実際、お前とカミラちゃんはそうやって結びついたってことだろ」

 

 

 頬は歪みまくってる。なんでそんなに笑えるかは理解しがたかった。どういう経緯があったにせよ、結婚の反応としては異常だ。ひとしきり笑ってから小林は目の端を押さえた。涙を流すほど笑っていたのだ。

 

 

「炊飯器は婚約祝いにやるよ。結婚祝いには、――そうだな、電子レンジを贈ってやる。最新式のヤツをな。新婚生活にばっちり合うのをあげるさ」

 

 

「ありがとう、助かるよ」

 

 

 首を振りながら僕はそうとだけ言っておいた。

 

 

↓押していただけると、非常に、嬉しいです。
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ
にほんブログ村

  

現代小説ランキング

 
↓↓ 猫と話せ、人の過去が見える占い師による二時間ドラマ風ミステリ! ↓↓

 

 

《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》

 

 

雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。