「は、母の話と、い、いうだけですが、そ、その、は、母も、わ、私と変わらないくらいの、と、年のときに、ち、父に出会ったんです。だ、誰でも、い、いいのかは、わ、わかりません。で、で、でも、ち、父は、そ、その当時、ひ、ひどい状態に、あ、あったようです。は、母は、そ、そのことに、き、き、気づきました。そ、そのときの、ち、力を超えて、き、危機的状況が、わ、わかったんです。た、ただ、ち、父は、は、はじめのうち、そ、それを、し、信じなかったそうです。し、しかし、じょ、状況がもっと、わ、わ、悪くなると、は、母を、た、頼らざるを得なく、な、な、なったんです。そ、そ、そして、」

 

 

 僕は手を挙げた。自然と溜息が洩れ出てくる。

 

 

「どこかで聴いた話に思えてきたな」

 

 

「わ、私も、そ、そう思います」

 

 

「それで、君のご両親は、――ま、君が生まれたってことはそういうことだよな。それで君のお母さんは力を完全なものにできたわけだ。そのためにそうしたってわけじゃないよな?」

 

 

「ま、まさか。は、母は、ち、父を、あ、あ、愛してました。そ、その、き、き、きっかけがなにであれ、――い、いえ、こ、これは、さ、さっき、い、言っていた、きっ、きっ、きっかけでは、な、なく、」

 

 

「わかるよ。当然わかる」

 

 

「あっ、ありがとう、ご、ございます。と、と、とにかく、そ、その、き、き、きっかけが、な、なんであれ、は、母は、ち、父のことを、は、はじめから、あ、あ、愛していたんです。め、巡りあわせが、あ、あったということです。ち、父も母によって、す、救われ、は、母は父によって、ち、力を、か、完全なものに、で、できた。は、母はそれを、や、や、約束されたことだったと、い、言っています。そ、そうなることが、き、決まって、い、いたのだと」

 

 

 最後の部分を強調するように口は閉じられた。瞳は動かない。どのような変化も見逃さないといった具合にだ。

 

 

「仮に、君のお父さんがそういう選択をしなかったらどうなってたと思う?」

 

 

「か、考えたくは、あ、ありませんが、さ、さ、最悪な、じ、事態になっていたかも、し、しれません。そ、それは、ち、父にとってと、い、いうだけでは、あ、ありません。は、母にとってもです。ち、力がどうとかでも、な、ないんです。だ、だって、は、母は、ち、父を、あ、あ、愛して、い、いたんですもの」

 

 

「なるほど」

 

 

 僕はそうとしか言えなかった。ある部分においては脅迫にも似てる。今のは彼女の両親のことであり、僕と彼女の話でもあるのだから。――いや、ちょっと待ってくれ。どうしてそうなるんだ? 僕はぬるくなったビールを飲み干した。これ以上この話をつづける気になれなかったのだ。

 

 

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《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》

 

 

雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。