「ほっ、ほっ、本当ですか? うっ、うっ、嬉しいです。で、で、では、い、い、一緒に、デ、デ、デパートに、い、行ってください」
「デパート? なんでだ?」
「そっ、そっ、その、ふっ、ふっ、服を、み、見立てて、い、いただきたいんです」
「はあ? 僕が君の服を選ぶってのか?」
「はっ、はっ、はい。そっ、そうして、い、いただけたら、」
「いや、ちょっと待ってくれ。なんでそうなるんだ?」
「だ、だって、あ、あ、あとは、ふ、服だと、お、お、仰ったから。そっ、そっ、それに、じ、自分に、ど、ど、どんな服が、に、似合うのかも、よ、よく、わ、わからないので」
「そういうのも雑誌に載ってるだろ? 『ふんわりナチュラル系』の服とかにしときゃいいんだよ」
「だ、だ、だけど、わ、私、じ、じ、自信が、な、ないので。そ、そ、それに、さっ、さっき、さ、佐々木さんは、な、な、なんでも、し、してくれるって、」
僕は天を仰いだ。やっぱり言い過ぎたんだ。なんでいつも軽く言っちゃうんだろ? 鷺沢萌子と暮らすことになったのだって、あまり考えずに口走った言葉が原因のひとつだったのだ(まあ、それ以外の理由もあったけど)。
ん? ちょっと待てよ。ということは、これも悪い霊の仕業なのか? ――いや、そうじゃないはずだ。なにしろこの女はそっち方面から引き離してくれるはずの存在なんだ。
「ど、ど、どうしました?」
髪を掻き回しながら僕は歩いた。わけがわからなくなってきたのだ。それと同時に、この女をどう見るようになっていたかわかってうんざりした。
「いや、でも、ほら、いつ仕事が終わるかわからないしさ。いったん出社したら、すぐ出なきゃならないんだよ。午後には池袋まで行くし、そこから直帰の予定なんだ」
「で、では、い、い、池袋の、デ、デパートにしましょう。そ、そ、それに、わ、私、ま、待つのなんて、へ、平気です。な、何時間でも、ま、待てます」
「そうなの? 三時間くらい待つかもしれないよ。デパートが閉まっちゃうかもしれない」
「そ、そうなったら、あ、あ、明日にします。で、で、でも、わ、私は待ちます。け、け、携帯電話の、ば、ば、番号は、わ、わかってるので、ず、ずっと、な、鳴るのを、お、お、お待ちしております」
くちゃくちゃになった髪を撫でつけると自動的に溜息が洩れた。こうなったらどうしようもない。今日だけ誤魔化しても明日がある。明後日だってあるのだ。肩を落としつつ僕はこう言った。
「わかったよ。そうしよう。それでいいんだろ?」
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