「もうヤバいぞ。今度のはほんとにヤバい。マジで全員がお前好みなんだぜ。完全にストライクゾーンだ。どこ振っても当たるようにできてる。ま、こりゃいわば接待だな。接待合コンだ」
顔を寄せ、小林は酒臭い息を吹きかけてきた。それはいいとして「全員がお前好み」というのは気になる。一応だけ、僕はこう訊いてみた。
「それで、俺のタイプってのはどういうのだ?」
「そりゃ、派手目で、こう、メイクもばっちりって感じの、それでいて乗り切れてないような、ちょっと田舎くさい子だろ? ああ、あと、すこし馬鹿っぽいってのもあるな。背は低く、年は若い。二十代じゃなきゃ駄目だ。これは絶対だ。違うか?」
躊躇することなく小林はすらすらとこたえた。確かに要約すればそういうことになるのだろう。ただ、引っかかりはする。
「じゃ、今度の合コンは全員そういうのが来るってのか? 派手目だけど乗り切れてない、田舎っぽくて馬鹿っぽい、小柄な二十代ってことか?」
あえてそう言うことで僕は気づきの呼び水をあたえたつもりだった。しかし、小林はこともなげにこう言った。
「ああ、その通りだよ。全員が派手目で馬鹿っぽい二十代だ」
僕は額を覆った。でも、諦めるしかない。暗澹たる表情をしてるのにも気づかないのだからまったく話にならない。
「五人来る。そのうちのひとりは、ほれ、この前と同じ子だ。俺が昔つきあってたネイリストの友達だよ。そいつにオーダーしといた。若くて、ちっこい、派手目な子がいいってな」
「ちょっと待て。この前のときと同じ子が来るってのか?」
「ん? ああ、そうだけど?」
僕たちは居酒屋にいた。「急遽執り行う」と言っていた同期会が実現したのだ。
「なんだよ。どうした? ――おい、まさかあの子を狙ってんじゃないだろうな。ありゃ、よしといた方がいい。顔があまりよろしくないだろ? お前はもっと上を狙える人間のはずだ」
喚き声がしてるあいだ僕は手をあげつづけた。「すこし黙っててくれ」と示したつもりだ。考えていたのは、そうであるなら鷺沢萌子のことも聴けるんじゃないか? ということだった。「顔があまりよろしくない子」とあの女にはなんらかの繋がりがあるはずだ。もしかしたらどこにいるか知ってるかもしれない。
「なんだよ、固まっちまって。――あっ、そうだ、清水、お前に訊きたいことがあったんだっけ」
小林は本来の目的を思い出したようだ。もしくは、どこまでも酒の肴にしようという肚づもりがあるのだろう。
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《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》