シャワーを浴び、髭を剃ると彼は電話をかけた。都電の踏切はカンカンと鳴っている。濃いコーヒーを淹れ、フライパンでトーストをつくってるところに折り返しがあった。

 

 

「どうしたの? また熱が出たりした?」

 

 

「いや、そっちは大丈夫だ」

 

 

「そっち? そっちじゃないのがあるってこと?」

 

 

「そうだ。悪いニュースがあるんだよ」

 

 

「悪いニュース? なによそれ」

 

 

 息は詰まるようになった。目は増水した川の映像へ向かっていく。濁流だ。

 

 

「非常に悪いニュースなんだ。今はまだ言えないくらい酷いんだよ。とにかく来てくれ。話は会ってからの方がいい」

 

 

「なにがあったのよ」

 

 

「来てから話す。その方がいいんだ。早く来てくれ」

 

 

 カンナはパジャマ姿で座ってる。カーテンの隙間からは光が射していた。

 

 

「電話じゃ言えないくらい悪い話ってこと?」

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

「それで、私に来て欲しいのね?」

 

 

「ん、怖いんだよ。君がいないと気が狂いそうだ」

 

 

 息遣いは耳許でしてる。カンナは胸に手をあてていた。ベッドは空で、タオルケットが乱れまくってる。目は細まっていった。

 

 

「私じゃないと駄目なの?」

 

 

「そうだ。カンナ、君じゃないと駄目なんだ」

 

 

 声は呻くようなものになった。テレビには浸水した家が映ってる。白みがかった泥ですべてが塗り尽くされてる映像だ。

 

 

「わかった、すぐ行く。それまで我慢してて」

 

 

 電話を切るとカンナは顔を洗い、手早く化粧をした。なにも考えないようにしたけどそれは難しかった。

 

 

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《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》

 

 

雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。