「ああ、早いな。徹が帰ってきたみたいだ」
気怠げに彼は首をあげた。しかし、聞こえてきたのは違う声だ。
「おーい、いないのか? ――いないみたいだな。でも、なんで鍵かけてないんだ?」
「だから言ったじゃないっすか。昼過ぎに会ったって。あいつはほんと酷かったんすよ。公務執行妨害で逮捕しときゃよかったって思うくらいですよ」
蓮實淳は笑った。カンナも大きく口をあけている。
「行ってきてくれないか? 俺はまだ動けないようだ」
「わかった」
ほどなくして刑事どもが覗きこんできた。一人は心配そうに、もう一人は忌々しそうにしてる。
「おい、若造。俺は一般市民としての懸念を伝えてやったんだぜ。それを公務執行妨害ってのはどういうつもりだ」
心配そうな顔はうんざりしきったものに変わった。若造は首まで赤くしてる。
「あんなのは一般市民のすることじゃないぞ。いいか? お前は捜査妨害をしたんだ。普通だったら捕まっても文句は言えないんだからな」
「ほんとうるさいな。キーキー喚くなよ。俺はむちゃくちゃ頭が痛いんだ」
「そうよ! この人は病気なの! ちょっとは静かにして!」
お前もな。彼はこめかみに指をあてた。山本刑事は首の後ろを掻いてる。
「ま、落ち着こうや。ところで、大丈夫なのか? 突然倒れたって聴いたけどよ」
「ん、大丈夫だ。頭は痛いがそれだけのことさ。――で、なにかあったんだろ?」
「ああ、小林衛は逮捕されたよ。田沼渉もな」
「そうか」
「気にしてたみたいだから、とりあえずそれだけ言いにきたんだ」
「濃やかな気遣いだな。痛み入るぜ。それで、子供はどうしてる? それに母親も」
「カミさんは署に来てるよ。取り乱してるそうだ。子供は、――ん? 一緒に来てるって言ってたか?」
「いえ、そこまで聴けてないっすね。でも、児相が動いてるんじゃないですか」
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