「悪い。待たせたな」

 

 

「いや、大丈夫だ。でも、どうしたんだよ。突然会いたいなんて、なにかあったのか?」

 

 

「ん、ちょっと訊きたいことができてな」

 

 

 鴫沼徹は噴水の前に立っていた。風のせいで水も煽られている。

 

 

「いい噴水だ」

 

 

「いい噴水? これがか?」

 

 

「だって、ずっとこいつを見てたんだろ?」

 

 

「はっ! 別にこんなの見ちゃいないよ。っていうか、店の真ん前だろ? 見飽きてるどころか、あるのすら忘れてたくらいだ」

 

 

 水飛沫は日に輝いている。ただ、流れる雲に辺りは暗くなった。

 

 

「久しぶりだったな。親父さんは元気か?」

 

 

「ああ。でも、年だからさ、ちょっとずついろんなとこが弱ってんだな、愚痴っぽくなってきたよ」

 

 

 ま、お前みたいな息子がいるんだ、愚痴くらいこぼしたくなるだろ。そう思いはしたものの、なにも言わずに彼は歩き出した。徹も黙ってついてくる。

 

 

「うん、ここでいいか」

 

 

 西池袋公園へ入ると二人は植え込みの前に掛けた。

 

 

「ほら、もっとこっち来いよ。離れてたら話ができないだろ」

 

 

「ん、それで、訊きたいことってのはなんだ?」

 

 

 徹は辺りを窺っている。彼は指先を向けた。

 

 

「そうだ。俺が知りたいのは、お前がいま考えてることだよ。包み隠さず話すんだ。そしたら今回も助けてやる。でも、嘘をつくようなら今度こそ警察行きだ。わかってるだろ? 俺はなんでもお見通しなんだぜ」

 

 

「やめてくれよ、警察だなんだってのは。俺はもう悪さなんてしてないんだ」

 

 

 煙草を取り出し、徹はライターを擦った。でも、つかない。何度やっても駄目だった。

 

 

「寄越せよ。ほら、つけてやる。――っていうか、ここで煙草喫うのも悪さの一つだけどな」

 

 

「でも、喫わないと落ち着かないんだよ。見てくれよ、手のひらも汗だらけだ」

 

 

「どんだけ小心者なんだよ。お前みたいな奴は真面目に生きるしかねえんだぞ。なんで悪さしようとするんだ」

 

 

「俺にだってわからないよ」

 

 

 けむりを吐き出し、徹は肩を落とした。目は遠くへ向かってる。

 

 

「まずは、柏木伊久男のことだ。この前殺された爺さんだよ。お前はそいつに脅迫されてた。お前が殺ったんじゃないだろうな?」

 

 

「おい、それマジで言ってんじゃないよな?」

 

 

 そう言ったものの見つめられると徹はうつむいた。彼は溜息をついている。

 

 

↓押していただけると、非常に、嬉しいです。
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ
にほんブログ村

  

現代小説ランキング

 
※もし、この小説を初めから読みたいと思いましたなら、下記のサイトでも公開しておりますので是非どうぞ。

 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 

 

 

《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》

 

 

雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。