「ナア!」
ああ、この声は猫師匠よね。そう思ってるそばから尻尾を立てたキティがあらわれた。顔をあげ、じっと見つめてくる。
「え?」
カンナはカーテンの閉まった店を見た。それから、視線をあげた。細い窓は暗い。
「なにかあったの?」
参道を通りかかった人はみな呆然としていた。写真を撮る人もいるけど、だいたいが足早に去っていく。
「ナア!」
「ねえ、キティ、なにかあったんでしょ?」
「ナア!」
「もう! わかるように言ってよ!」
急いで鍵を外すとカンナは階段を駆けのぼり、破るようにドアを開けた。
「え?」
そう言ったきり、カンナは立ち尽くした。どうしちゃったの? 空っぽのベッドには陽光があたり、小さなデスクには飲みさしのコーヒーカップが置いてある。それを取ったとき、階下から一斉に声があがった。
「ニャア! ンナア!」
「ニャ! ニャ!」
「ンニャ! ニャア!」
激しく頭を振り、カンナは降りていった。なんだか目眩がするようだ。足許がふらつく。
「わかったから、ちょっと待って。そんなにみんなで鳴かないでよ」
予約状況を確かめるとカンナは何本か電話をかけた。猫たちは嘘のように静まってる。それを横目に『本日臨時休業。大変申し訳ございません』と書き、ガラス戸に貼りつけた。
「さ、なにがあったか教えて。私にもわかるようによ」
腰に手をあて、カンナは居並ぶ猫を見渡した。
「どうしてあの人はいないの? いったいなにがあったの?」
「ナア!」
キティが叫ぶと、猫たちはぞろぞろと出て行った。――もう! なんなのよ!
「は?」
店前にはキティだけがいた。魔法をかけられたかのように猫は消えている。まあ、身体の大きなゴンザレスが見えたから、ばらばらに駆け出したのだろう。カンナはしゃがみ込んだ。
「で? キティ。私はどうしたらいいの?」
「ナア」
弱く鳴くと、キティは顔をそむけた。それから、鬼子母神の方へ走り、立ちどまった。
「ついて来いってこと? そうなんでしょ?」
「ナア!」
また走り、キティは振り向いた。鍵を閉め、カンナも走り出した。
―― ちょっとばかりお休みして、
第13章へ行きますね。
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