「だから?」
「だから、不思議なんだよ。お前さんの話は信用ならないってことになる。いいか? お前さんは開いてるドアから覗きこんだんだよな? まあ、それだってあり得る話だ。ただ、戸口に立ってたら、倒れてる爺さんは見えなかったはずなんだ。しゃがんだりしない限りはな。お前さんはしゃがんだのか?」
「ああ、しゃがんだんだ。で、倒れてるのを見た」
「どうして? なぜ、しゃがんだ? それじゃ、まるで倒れてるのを知ってたみたいじゃないか」
「それは――」
蓮實淳は顔をあげた。エビ茶は睨むように見てる。
「なんでもお見通しの先生様だからわかったなんて言うなよ。普通に考えて、お前さんの行動はおかしい。ドアの前に立ったとこまでなら理解できる。でも、その後は妙だ。初めて行った家、声をかけても誰も出てこない。そこで、お前さんはしゃがみこみまでして住人を探してる。知りあいでもありゃ説明はつくんだろう。しかし、あの部屋はお前さんにとってトラブル相手のものだ」
「だからなんだよ」
「俺たちはこう思うってわけさ。お前さんの言ってるのは全部嘘か、途中から嘘が混じってるんだろうな――ってね。それに、こうも考えられる。もし、本当にしゃがんだってなら、それは爺さんが倒れてるのを知ってたってことだ。じゃあ、それはどうして? こたえは簡単。お前さんが殺したんだ。それを確認しに行ったんだよ」
彼は腕を組んだ。目は無味乾燥なテーブルに向かってる。「猫に教えてもらった」なんて言っても信用されないだろうな。まあ、そうなったところで証言してもらうわけにはいかない。俺が通訳するしかないんだし、だったら一人でしゃべってるのと変わらないもんな。
「ほら、どうした? さっきまでの元気はどこにいっちまったんだ?」
意地の悪そうな顔でエビ茶は覗きこんできた。
「吐いちまえよ。楽になるぜ。いま認めりゃ、俺がいいように言っといてやる。否認してたってロクなこたねえぞ。心証が悪くなる一方だ。ほら、言っちまえって」
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