「っていうか、ちょっとは考えようと思わないのか? さっきから『で?』とか『だから?』ばかりでさ」
「だって、考えるのはあなたの仕事でしょ。私は助手だもん。――で、だからどうだっていうの?」
伸びたチーズを絡めるとカンナは指先を咥えた。そのまま唇を尖らせてる。頭を振りつつ彼は話した。
「だからさ、こうやって書くのはおかしいと思わないか? これじゃ自ら脅迫のネタを放り出してるようなもんだ。いや、こうやってプレッシャーをあたえてるとも取れるよ。ただ、ビラをつくるたび手の内をさらすなんて妙だ」
「そお? それこそ、そのプレッシャーをあたえようとしてるってんでいいんじゃない? だって、こんなの見たら、あの馬鹿息子は嫌な気分になるでしょ。そのジジイはそうやって皆を嫌な気分にしようって魂胆なのよ」
「ただ、そうなると矛盾ができるように思えるんだよ。あのジジイの目的は俺たちの店を潰すことなんだ。『廃業しろ』ってのが脅迫状の主目的だとしたらそうなるはずだろ? で、その動機は『商売の邪魔』だからってことになる。だったら、手の内をさらすのはなんでだ?」
「まあ、」
ソファに背中をくっつけるとカンナは腕を組んだ。
「そう言われるとそうも思えるわ。ほとんど全部が嘘なんだから、そこも嘘でいいわけよね。私のとこなんて完全に作ってるわけじゃない。だったら、大和田さんや鴫沼のことなんて書かずに作っちゃえばいいわけだし」
「そうなんだよ。あの爺さんにはちぐはぐなところがある。ビラにしてるのも変な話だし、動機にもちぐはぐさがある。この店を潰そうってのはその通りなんだろう。ただ、やり方がおかしいんだ」
ビラを摘まみ上げ、彼はさっと目を通した。頬は自然と強張っていく。ただ、カンナについて書かれた部分を読んだときは口を覆った。
『交合』って――と思ったのだ。こういうのって逆に生々しいな。それに、これはほんとよく撮れてる。胸を中心にして、その大きさがわかるアングルになってるもんな。ふうむ、素晴らしい。
「なに? なにかわかったことあるの?」
「いや、」
紙を放ると彼は鼻に指をあてた。いつもの考えてる姿勢だ。ただ、ともすると思考は変な方向へ走っていった。
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