「あと、よくあるパターンは『二十年前の悲劇』ね。それが今の事件に関係してるの。商売してた実家が潰されたとかで復讐するのよ。ほんとは兄弟なのに、それを隠してたりして」
「あるある。えっ、この二人、実は兄弟だったの? みたいなやつでしょ。生き別れとかになってるのよね。養護施設で育ってるから名前も違ってて、最初はわからないのよ」
そこまで話すと二人は顔を向けた。千春は半ば呆れていた。――ほんと、この男はいったん不安になると、ずるずる落ち込んでいくんだから。
「ねえ、いつまでそんなの見てるのよ。じっと見てたらわかることでもあるの?」
「ん、そうじゃないけどさ」
「でも、気になっちゃうってんでしょ? だけど、考えたってわからないものはしょうがないじゃない」
「まあ、そうだけど、それでも気になっちゃうんだよ。うーん、いったい誰がこんなもん寄越したんだろ」
ハーブティを注ぎながら、カンナは瞳を上げた。今の声で感じていたものの正体がわかったのだ。この人は千春ちゃんの前だと思いっきり甘えん坊になる。私には見せないとこを見せてる――というのがそれだ。
「はい。お茶も淹れたから食べましょうよ。せっかく千春ちゃんが落ち込んでるあなたの為にって、美味しいもの買ってきてくれたんだから」
千春は細めた目を奥へ向けた。なに? 今の言い方は。ちょっと、――ううん、かなり当てつけがましく聞こえたんだけど。
「そうよ。きっとカンナちゃんだって、こういうときにいいハーブティを淹れてくれたんでしょうから、食べちゃいましょう」
そう言いあって、二人はふたたび顔を向けた。彼はまだ脅迫状を見てる。ほんと頭痛くなってくるわ――これは二人ともに得た感想だ。
「そうそう、あのドラマって、決め台詞っぽいのがあったじゃない?」
つとめて明るい声を出すことで千春は悪くなった空気を薄めようとした。まあ、二時間ドラマの話でそうなるかわからないものの、行きがかり上そうなってしまったのだ。
「ああ、あったわね。あれ? どういうんだっけ」
カンナにも意図がわかった。気になることは多々あるけど、ここはこの男に立ち直ってもらうしかない。じゃないと、マンションに帰ってから気まずいものね。
「ほら、十時十五分くらいに言うやつよ。――ええと、なんだっけ? 『待って』とかそういう感じなんだけど」
「うん、そうだったわね。あのドラマって子供のときにやってたから、男子がよく真似してた。でも、どんなだったっけ?」
紙を放ると蓮實淳はうなずいてみせた。
「『ちょっと待って!』ってやつだろ? 『ちょっと待って! 今、この辺りまで出てるのよ!』ってつづくんだ。これはトイレへ行く前にやるには古典的なギャグだ」
呆れ顔で二人は首を振っている。なんだよ、こたえたらこうなるってのはどういうわけだ? そう思いながら、彼はハーブティを飲んだ。
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