蓮實淳は蛇の描かれてるものを手に取った。見た目のわりには軽い。ただ、じっと見つめてると胸がざわざわするような気がした。

 

 

「この模様には意味があるのか? 干支えととか。――いや、干支に猫はいないか」

 

 

「コレ? コノ動物ノコト? アア、コレハネェ、」

 

 

 男は言い淀んだ。金色の瞳は鈍く光ったようにみえる。

 

 

「ソウ、コレハネ、蛇ト話セルヨウニナル物ネ」

 

 

「蛇と話せる?」

 

 

「ソウヨ。ソシテ、コッチハ猫ト話セルノ。言ウマデモナイケド、コッチハ犬トネ」

 

 

「は? 猫? 犬? 話せる?」

 

 

「ウン、コレハネ、某世界的組織ガ、ヤッキニナッテ探シテル逸品ヨ。世界中ニ十二個アル内ノ三ツネ。見テヨ、コレ――」

 

 

 男は中心にある金属片を指した。

 

 

「ソロモン王ノ指輪、ソノ欠片ナノネ。知ッテル? ソロモン王。偉大ナル、ユダヤノ王。彼ハ動物ト話セ、悪魔ヲモ従エタノヨ。コノ指輪ノオ陰デネ。ダケド、イツシカ指輪ハ失ワレ、十二個ノ欠片トシテ発見サレタノ。ソレヲ十字軍ガ回収シ、テンプル騎士団ガ、コノヨウナ形ニシタッテワケ。ドウ? スゴイデショ?」

 

 

 興奮したようでつばが降りかかってきた。それにもうんざりしたけど、顔を拭うと蓮實淳は腕を組んだ。

 

 

「でも、蛇と話してなにになるっていうんだ? 猫や犬だって同じだ」

 

 

 男の興奮は一瞬にして冷めたようだった。おおげさに肩をすくめ、頭を振った。

 

 

「ソレヨ、問題ハソレナノヨ。ワタシモ同意見ネ」

 

 

「あんたはこれでしゃべったことあるのか? その、犬や猫と。まあ、蛇とでもいいけど」

 

 

 ああ馬鹿馬鹿しいと思いながら、蓮實淳は犬のも猫のも手に取ってみた。なんとはなしに持ったときの印象が違う。蛇のはざわざわした。犬のはひんやりした(彼は幼少期にロバほどの大きい犬に噛まれたことがあって、それ以来犬が苦手だった。そのせいかな? と思った)。猫のは若干だけ温かみをおぼえた。

 

 

「ソンナ趣味ナイネ。暇モナイノヨ。犬ナンカト話シテ、ナニニナルノ? 一文ノ得ニモナラナイネ」

 

 

 落胆した声を出すと、男は唇をねじらせた。瞳からは光が失われ、濡れてるようにみえた。

 

 

「ワタシ、哀レナ、シガナイ行商人ネ。セッカク遠クマデ来テ、シコタマ買ッテモラエルト思ッタノニ、山崎サン、女ノ子ト遊ビ過ギテ腰痛メタネ。ワタシ、苦労シテルノニ、山崎サン、イイ思イシテル。コレハ現実ネ。ワタシ、ソノ現実、悲シイヨ」

 

 

 泣き落とし作戦に切り替えやがったな――そう思ったものの、男の落胆振りは哀れを誘うものだった。彼はこういうのにも弱い。小心者だからだろうけど、すぐ同情してしまうのだ。

 

 

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雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。