「コレハ、クレオパトラ愛用ノネックレス。コレ、全部ノ石、本物ヨ。コッチハネェ、ポンパドール公爵夫人ゴ愛用品ネ。非常ニセイコウニ出来テルイッピン

 

 

 蓮實淳は入口の方をうかがった。誰か来てくれれば、この嘘つき外国人から逃れられるのだ。しかし、前を通る影すらない。男は説明をつづけた。古ぼけたパイプを出してはチャーチル愛用品と言い、蓋のへこんだ懐中時計はシモン・ボリバルの遺品と言い張った。そんなの絶対に嘘だし――そう思いながらも、ひとつだけ本当のことを言ってるのに気づいた。山崎さんがコイツから仕入れてるってことだ。出してくる物に脈絡がないのでわかる。そもそもこの男がどこの国の人間かもわからない。たどたどしい日本語を話すかと思いきや、「人ヤ物トノ出会イハ一期一会ネ!」などと言いだす。うんざりしていたものの、彼はこの謎の男に興味を持ちはじめた。とはいっても、なにも買う気にはなれないけど。

 

 

「コンナニ素晴ラシイ品物バカリナノニ、旦那はカレナイノ? ソレ、モッタイナイヨ! 山崎サン、イッパイ買ッテクレル。旦那モ何カ買ッテヨ。――アア、恋人ニプレゼント! 絶対、喜バレルネ! モテモテ。ソレデ山崎サン、腰痛メタネ」

 

 

「でも、欲しいものがないんだ。悪いけど、ないんだ」

 

 

 そうこたえてから、ん? と思った。しゃべり方がすこしうつったな。

 

 

「ホラ、言ウデショウ? エエト、魚心アレバ水心ッテ。日本ニハ良イ言葉ガ沢山アルモノヨ!」

 

 

 男は細長い箱を取り出し、少しばかり真剣そうな顔つきをつくった。

 

 

「モウ、旦那ニハカナワナイヨ! ワタシ、トッテオキヲ出スヨ。ビックリスルコト、ウケアウヨ!」

 

 

 そこには似たような造りのペンダントヘッドが三つ並んでいた。六角形の角を丸くしたような形で、全体をガラス様のものが覆ってる。角の部分には三つそれぞれ違う色の石がめられていて、中心には細かな模様と見たことのない文字の刻まれた金属の破片が収められていた。その下には動物のシルエットがある。蛇に猫、それと犬だ。

 

 

「旦那、コレヲ見ラレルナンテ、トテモ運ガイイヨ! ラッキーボーイネェ、ヒューッ!」

 

 

「ああ、これは、」

 

 

 そう言いながら、蓮實淳も覗きこんだ。

 

 

「うん。いい物っぽいな」

 

 

「ソウヨ! コレラハ、トテモ良イ物! ワタシノトッテオキネ! コレヲ出スコトニナルトハ思ッテナカッタヨ! コレ、女ノ子ニアゲル。女ノ子、股ヲ開ク。腰ヲ痛メナイヨウニスルノ大変ネ!」

 

 

 

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雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。