彼は四日間そこで店番をしていたのだけど、その最終日、空も気分もどんよりした木曜に大きな荷物を持ち、背中にも背負った男が入ってきた。白いゆったりした服の上にダウンコートを着た、腕に太い真鍮のバングルを嵌めた男で、髭を生やし、肌は浅黒く、瞳は金色だった。年は三十代から四十代だろうか――外国人の年齢というのはわかりにくいものだ。そう、その男は外国人風だった。
「山崎サンハ、イナインデスカ? ドウシタンデスカ?」
男は入ってくるなりそう言ってきた。そして、山崎さん(店主だ)の不在理由を聴くと、手首を額にあてながら、「オウ! ソレハ残念至極デスネェ! イイ出物ガアッタノニ!」と嘆いてみせた。
「今日ハ約束シテタノデ沢山品物ヲ持ッテ来タンデスヨ。ダカラ、コンナ大荷物ネ。ベリーヘビーダッタノヨ」
お前のせいで大変な迷惑をこうむったというような顔をして、男は荷物を置き、リュックをタイルの嵌め込んである小卓に乗せた。
「それはお気の毒」とだけ蓮實淳は言っておいた。
「オキノドク?」
眉間に皺を寄せ、男は顎を突き出した。汗とそれまで嗅いだことのない香料の匂いが漂ってくる。そのどちらもがあまり心地よいものではなかった。
「残念だったね、という意味ですよ」
「オウ! 残念ネ! ソウ、残念至極!」
男は突然笑いだした。言ってるのと表情がちぐはぐだし、臭いもきつい。参ったな、こりゃ。
「ワタシ、ワザワザ、ベリーヘビーナ荷物持ッテ来タネ。旦那、ドウ? セッカクダカラ、チョットダケ見テミル? ソレトモ見テミナイ?」
しゃがみ込むと男はごそごそと荷物を漁りはじめた。そして、有無を言わさず大振りな木製のケースを取り出した。なんだよ、選択権はけっきょく無いのかよ、と思ってる内にも同じようなケースをもうひとつ出してくる。
「見ルダケハ、タダヨ。イッパイ見テ。ワタシ、オッパイ見セルノ嫌ダケド、イッパイハ見テ欲シイノヨ」
うわっ、今のジョークだ。蓮實淳はうんざりした。男はどうだとばかりに笑顔を強くしている。早く帰ってくれないかなぁ。そう思いながら、一応は笑っておいた。
↓押していただけると、非常に、嬉しいです。
にほんブログ村