第3章 

 
 

 そろそろ蓮實淳の〈能力〉についてきちんと説明する必要が出てきたようだ。それと、占い師になった経緯も述べた方がいいだろう。

 

 彼の〈能力〉には二つの異なる側面があった。ひとつは《見る》ことであり、もうひとつは《聴く》ことだ。《見る》方に関してはどのようになってるかの説明はした。まあ、それだって簡単には信じられないだろうけど、《聴く》方に至ってはもっと信じられないかもしれない。なにしろ猫の声を《聴ける》なんてのは実に馬鹿げたことだからだ。それはカンナのみならず、誰だってそう思うだろう。しかし、これは事実なのだ。では、どうしてそのようになったのかだが、これには――もうお気づきだろうけど――彼のしてるペンダントが関わっていた。

 

 この雪の日から遡ること一年ばかり、彼はびっくりガード近くにある雑貨屋『Boogie Wonderland』で店番をしていた。店主がぎっくり腰になったので、かつて働いていて暇を持て余してる男にお呼びがかかったというわけだった。

 

 彼が幾つも仕事をしてきたのはこれまでにも書いた。携帯電話販売店やレンタルビデオ屋、雑貨屋、喫茶店、そして、最後にしていたのが飲み屋の店長だった。そこが潰れ、突然無職になったのだけど、そのときの喪失感はとてつもなく深く、新しい仕事を探す気にもなれなかった。

 

 しかも、それが原因で千春と別れてもいた。この男は働いてないと途端に自信をなくすタイプの人間なのだ。こんな状態では愛想を尽かされてしまうと思い、その考えにとらわれ、空回りする。普段であれば聞き流せる毒舌にも敏感に反応してしまい、喧嘩が絶えなくなり、別れる――理屈で書くとこうだけど、当事者たる彼はそのプロセスを理解してなかった。仕事を失い、苛々し、恋人と別れたのがわかるだけだ。そして、気鬱にもなった。まあ、会社都合解雇だったから失業保険はすぐおりたし、傷心を癒やすためしばらくぶらぶらしてるつもりだった。そこへお呼びがかかったのだ。

 

 

 

 その雑貨屋は名前が示す以上に雑多な物の集合体だった。棚には皿やカトラリー、バッグ、文房具、アクセサリーなどがごちゃっと置いてあり、ばかでかい扇子や、これまた非常に大きな壺、石造りの仏像の頭部に籐を編んだ籠、踊るシヴァ神像、ユダヤ教の燭台なんかも所狭しと並んでいた。店主がおそろしく適当な人だったので、気がつくと様々なものが紛れ込んでくるのだ。まさにワンダーランド――久しぶりに見て、彼はそう思ったものだ。とりとめがない。たまにお客さんが来ても値札もないというとりとめのなさで、そういう場合は適当に値段をつけた。

 

 

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雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。