そして、彼にはそういう間にぴったりと合わせられる勘があった。これもある意味では〈能力〉のひとつといっていいのだろう。
「でも、キティ、君の力が必要なんだ」
蓮實淳は瞳を輝かせ(すくなくともキティにはそう見えた)、祈るように手を合わせた。
「みんなには俺からも言っとく。あの学校には近づくなって。だから、助けてくれよ。これからは新聞も読むようにするから」
「ふんっ!」
キティは鼻を鳴らした。それから、和らげた声をつくり、「それだけかい?」とつけ足した。
「カンナにもきちっと言っとく。人間であれ猫であれ年長者には敬意を持って接するようにって。下らないネズミのオモチャは使わせない。それでいいか?」
立ちあがるとキティは尻尾を振るわした。しょうがないねぇ、と思う。そして、声に出してそう言った。
「しょうがないねぇ。わかった、やってやるよ」
「ありがとう! キティ!」
彼は強く抱きしめた。身体を捩り、逃げるような素振りをみせたものの、キティはそのままに任せた。
それから彼らはいかにして浮気相手を捜すかの相談をした。大和田義雄の勤め先はキティのテリトリーにあるので、近くに張り番を置く。つなぎの猫も用意して、それらしい相手と会っていたら尾行させ、家を突きとめる。もし電車やバスで遠方に行くようなら、蓮實淳が行き先を特定させる。それでも猫の力が必要な場合はキティと赴いて、近隣の猫に渡りをつける。まあ、そんな感じだ。
「あんた、他にも気になることがあるって言ってたね。そっちはどうするんだい?」
「その男の周囲に妙な動きをするのがいたら、教えて欲しいな。でも、深追いすることはない。まずは浮気相手を特定するのが先だ」
「わかった。一度、――そうだね、明日の夜にでもみんなを呼ぶから、そんときに写真を見せとくれ。あの小娘がいなくなってからにするからね」
床に飛び降りると、キティは顔をあげた。まったく妙ちきりんなことになったもんだよ――そう思っている。アタシが人間の役に立ってやろうとするなんてね。ま、だけど、しょうがない。この人は特別だからね。
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