FishBowlが取り壊されたときの話に戻そう。
長いあいだ放置されていたその場所は櫻井家から手放されることになった。
敏光くんは五人もの小・敏光とでもいうべき子供たちを養うのに相応以上のお金をかけていたし、学園も生徒が減っている中でその経営を見直さなければならない時期にさしかかっていた。
これに関しては、真昼ちゃんが大鉈を振るって美樹さんを理事長に据えたことが良い結果を生んだといえる。
もっと悪くなってもおかしくない状況を美樹さんは比較的上手に切り抜けてるようだ。ただ、櫻井家に金が必要なのはかわりなく、FishBowlの土地を遊ばせているわけにもいかなくなったのだ。
如才なく義理堅い美樹さんは母さんにそれを伝えてきた。処分するにあたって、もし最後にそこを見たいなら鍵を貸すと言ってきたのだ。僕のもとへは母さんから連絡があった。
「母さんは行かないの?」
その電話があったとき、僕はそう訊いてみた。
「私?」
母さんはそんなこと考えてもみなかったという声を出した。
「私は行かないわ。行きたくないのよ。あそこには思い出さなければならないことがたくさんあるでしょ。私にはちょっと耐えられないと思うわ」
僕と温佳は時間をつくってそこへ向かった。
門には大きな板が貼りつけられ、太い鎖と南京錠がだらりとぶら下がっていた。
同じ場所に立ってから五年の月日が流れていたけど、FishBowlはそんな時の経過など感じさせないようにみえた。
売りに出すためなのだろう、土地を覆う草も刈り取られていた。ハーブ園のあったところも更地になっていたけど、幾つかのハーブは野生化したように小さいながらも生えていた。僕はそれらを写真におさめた。
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