「あたしにはわかったのよ」と後に温佳は言った。
「真昼ちゃんに強く抱きしめられたとき、あたしたちの感情がけっして間違ったものじゃないってわかったの。あたしは草介おじさんに清春を頼むって言われてたわ。それと真昼ちゃんに言われたことが繋がったの。
病室で言われたのと、まだあたしたちが子供だった頃に言われたのも繋がったわ。だから、あたしはなにがあってもあんたを守ってみせるって思ったの。
こういうのって馬鹿げた、ロマンチックに過ぎる考えだと思うけど、でも、真昼ちゃんがあたしたちを抱えるようにしたとき、あたしにはわかったの。真昼ちゃんが許してくれてるってこともね」
真昼ちゃんは荒く息を吐いていた。
言葉を出せるようになると、さらに強く抱き寄せ、「なんて言ったらいいかわからないわ」と言った。それから、腕の力を抜いた。
「あんたたちの顔をちゃんと見せてちょうだい」
僕たちはベッドの前に並び立った。髪がぱさぱさになって化粧もしてない姿は腹の中に異質なものを詰めこまれたような気分にさせた。しかし、僕たちは明るい表情で見つめつづけた。
ペンをとると真昼ちゃんはホワイトボードに向かった。
『あんたたちはたいへんなことをしたわ。血をわけた兄と妹が愛しあってるなんて、許されるようなことじゃないわ』
それを見せながら真昼ちゃんは睨むような目を向けてきた。そして、またペンをはしらせた。
『あんたたちにはこれからたくさんの悪いことがあるでしょう。誰もあんたたちを理解してくれないわ。理解しようともしないわよ。それはわかってるんでしょうね?』
正面を向いたまま温佳は手を伸ばしてきた。僕はその指をとらえた。
「ええ、わかってるわ」
手を握ると、温佳はそう言った。しっかりした明るい声だった。真昼ちゃんは顔を向けてきた。
「これは井田隆徳がわからせてくれたことでもあるんだよ。もちろん自分たちの感情がはじまりだったよ。だけど、彼が間違ったものじゃないって気づかせてくれた。長い時間かけて教えてくれてたんだ」
『そうなんでしょうよ。そんなのいかにも彼がしそうなことだわ。あの人はなんだって許しちゃうの。どんなことだってね。そういう感覚が薄いの。世間だなんだなんてのから超越してたの。
でもね、それが彼を苦しめてたのよ。いい? あの人は苦しんでたの。それを書こうとしてたんだわ。自分を苦しめる、だけど自分でつくりあげた状態をよ。あんたたちだって同じように苦しむようになるわ』
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