さかのぼること、去年の 3月7日。
背丈以上あった路肩の雪が腰の高さくらいになった頃。
私はカウンターだけの小さなBARにいました。
ご夫婦で経営するそのお店は、
テレビ局関係者、ドクター、音楽家、など、
“大物” と言われる人がふらりと立ち寄っていく、
不思議なBAR。
このお店のことは
札幌に越してからの自分を話すとき、
決して外すことのできない存在。
私は、そこのマスターとママが大好きです!
えーと、お店とのご縁は、
また別の機会に。
「キヨミちゃんは烏龍茶ね」
注文する前にマスターが出してくれる。
嬉しい。
そのお店にいると、
私は子どもにかえったような気持ちになる。
楽しいママのおしゃべりが
スマホを見て不意に止まり、
「哲さん来るわ!キヨミさん、渡辺哲さん来るよ!」
渡辺 哲 って・・・・「俳優の渡辺哲さんですか?」
「そう、舞台終わったから、来るって」
“ ああ ―!
私が観たいと思って行けなかったやつだぁ!”
噓じゃない!
ほんとに観たいと思ってた!
当時、私が所属していた劇団は、
主にアングラ芝居を上演することで知られていた。
寺山修司が好きで、著書や関連の資料も読み、
その世界観に浸ってはいたものの、
私の中身の7割ほどは・・・・
ドリフターズで出来上がっていた。
“ こんな舞台、観たら 楽しくなって、
嫌なこと吹き飛んじゃうよなぁ― ”
2日間のうち、
初日が稽古日で、楽日は会員制だった為
観劇を断念した公演だった。
え! まさか! そんなことって! ホントに!?
ママさんは続けて何か話しかけてくれていたが、
何しろ頭の中が ぐるぐるで、
「キヨミさん、」
と 呼ばれてハッとした。
「キヨミさん、6月の東京公演宣伝したら来てくれるよ!」
「用事がなければ ほんとに来てくれるから。哲さん、そういう人なの。」
ママさんは、まじめな顔だった。
そうこうしているうちに、ドアが開いた。
冷たい外気が先に店内に入り込む ―
眉毛が隠れるくらいに深く、
毛糸の帽子を被った
大きな男の人が入ってきた。
※ ⑵ へつづく
気がづかないだけ
光はいつも
私たちに
ふりそそいでいる