星の中を列車が進む。
まるで、999に乗って、銀河鉄道で走っている。
さしずめ、俺が鉄郎で智くんがメーテルかな。
窓に顔を寄せ、2人で外を見る。
幸せな時間。
もし・・・
願いが叶わなかったとしても、この時間がずっと続くのなら、それでもいいと思ったけど・・・
列車がスピードを落として、ゆっくり下降して、静かに止まる。
“イチオクノホシ~ イチオクノホシ~
三号車のお客様は御降車になります。”
『ちゃとちくん、ちょーくん、おんりしゅるの!!』
アナウンスの声とブルーデイジーの声に、俺と智くん、7人の妖精さんが列車から降りた。
『じぇっーちゃい、だいじょうぶじゃから。』
さとちくんの可愛い聲が頭の中に聞こえて、俺と智くんが振り返る。
見ると5人の車掌さんが、乗った時と同じように手を振っていた。
ピカピカの笑顔で手を振る5人に俺たちも手を振り返して、改札を出た。
あれ・・・ここは・・・
駅には見覚えがなかったけど、この景色、この風景。
ここは・・・
『ここ・・・おいらが小さい時に、父ちゃんと母ちゃんと一緒に遊びに来た場所だぁ・・・。
日本で1番、星がきれいに見える場所。星が空から降ってくる場所。』
そう、俺も親父とお袋と一緒に、小さいころ、来たことがある。
満天の星空を見て、顔の上に振ってくる星が凄くて、綺麗で・・・
そこから、星、月、空、雲、風・・・全部が大好きになった。
思い出の場所だ。
『星がいっぱいだったこの場所で、おいら、初めて花火を見たんだぁ~。
おっきくて、綺麗な夜の空に咲いた花火が嬉しくて、おいら、固まってみてた(笑)』
『懐かしいなぁ・・・』
手を繋いで、歩きながら智くんが言う。
俺にとっても、ここは懐かしい場所。
そして、俺の記憶の中に1つの・・・心の奥にしまったものがよみがえってくる。
俺もここで初めて花火を見た。
星空の中で咲いた大きな花とその音にびっくりして、動けなくて、泣きそうに・・・なっていた。
その時、ニッコリ笑って、俺の手をキュッと握ってくれた、小さな子がいた。
朝顔の浴衣を着て、マッシュルームカットの可愛い・・・女の子・・・
俺の・・・初恋・・・
暫くの間、その子と結婚するって思ってた。
でもそれから会えることはなく、そのうち、その子は幻影だと思うようになって、
俺の心の奥深くに眠っていた。
『あっ、ここ、父ちゃんと虫取りした森!!
蝉取りしたり、カブトムシとったり。もう今じゃ、触れねぇけど(*´艸`*)』
『智くん、虫、触れるの!?』
『子供んときなぁ~(笑)
今はもう無理。カエルとかトカゲは平気かもだけどな(笑)』
『まさか、蛇も!?』
『へびぃ~!!蛇はおいらも苦手だよ(笑)』
良かった~!!
『ちょーくん、へびしゃん、にぎゃちぇにゃの?おまもりしゃんににゃりゅにょにね。』
『そうよね~。白蛇さんなんて、可愛いわよ。』
『白蛇さんは魔除けになるし、』
『守り神にもなるわよね。』
『私たち、妖精には可愛い存在だけど、』
『翔くんは・・・怖いのね。』
『翔くん、あまり生き物が得意じゃないみたいだもの。』
『可愛がるのは、智くんだけ・・・ね。』
ブルーデイジーと妖精さんたちが、こしょこしょ言いながら、
俺たちの上をふわふわしながらついてくる。
時々、くるくる指をまわしたり、ひらひら手を振ったり、
よく聞こえないけど、何かもしょもしょ言ったり・・・
その度に、足元がほのかに照らされ、智くんの行きたい方向が明るくなる。
『あー!!ここ!!』
『ここだ・・・』
智くんの聲と俺の声が重なった。
そこは、湖のほとりで、小さなころ、俺が初恋の君と花火を見た場所。
『父ちゃん・・・母ちゃん・・・』
そしてそこに・・・智くんのお父さん、お母さんがいた。
『なんで、なんでいるの?夢?夢?ううん、夢でもいいよ。父ちゃん、母ちゃん・・・』
智くんの目から、1粒、2粒・・・涙が零れる。
『智が願っただろう、七夕の日に。』
『智が願ったから、神さまが・・・叶えてくれたのよ。』
『あたちもおちぇちゅじゃいちたの~!!』
『そうね。』『そうだな。』
『ブルーデイジーちゃんと2人を見守ってくれてる、7人の妖精さんも力を貸してくれてね。』
『一緒に花火が見れるぞ。小さい智も一緒にな。』
『小さいおいら?』
『そうだ、小さい智にも私と母さんにも見えんがな(笑)』
『みんなで一緒に見れるわ。』
『やっちゃ~!!』
ブルーデイジーが飛び上がって、7人の妖精さんも拍手をする。
『翔くん、翔くんの願いも・・・ありがとう。』
お母さんが俺を見ながら言って、顔を前の方に向けた。
目線の方を見ると、そこには浴衣を・・・朝顔の浴衣を着た小さな子がいた。
その隣には、3歳の・・・俺!!
えっ!!え、えっ!?
俺の初恋、智くん!?
『うぷぷ~、しょうにゃの~!!ちゃとちくんとちょーくん、きまっちぇちゃの~!!』
ブルーデイジーのおしゃまな声が聞こえた。
俺の願いごと
智くんの願いごとを叶えてほしいことと、生まれて初めてみた花火の感動を智くんと感じたい。
叶ってたんだ・・・
『翔くん、もうすぐ花火があがるよ。』
いつの間にか笠巻絞りの浴衣を着た智くんが、俺の手を握って笑った。
浴衣の模様は、朝顔のようだった。
続きます。
次・・・花火が上がります。あー、良かった!!